論文対策講座
論文対策講座-合格答案の書き方_問題1

 以下の事例における,甲の罪責を論ぜよ。 甲は,交際していたAから,突然,別れ話を持ち出されて激高し,Aに対して殺意を抱くに至った。
 そこで,甲は,Aに襲いかかり,台所にあった出刃包丁でAの腹部を5回突き刺した。
 Aは,甲に出刃包丁で突き刺されたことにより,出血多量で死亡した。
(平成16年度旧司法試験を簡易化したもの)

論文対策講座-合格答案の書き方_問題1参考答案

1.甲が,Aを包丁で突き刺し,死亡させた行為につき,殺人罪(刑法199条)が成立しないか。
2(1)ア.まず,甲の行為が,殺人罪の実行行為にあたるかが問題となる。
イ.実行行為とは,構成要件的結果発生の現実的危険性を有する行為をいう。
ウ.甲は,Aの身体の枢要部である腹部を,殺傷力の強い出刃包丁で,5回も突き刺している。これは,出血多量等により人が死亡する現実的危険性を十分に有する行為である。
エ.よって,殺人罪の実行行為にあたる。
(2)次に,甲の上記行為によりAは死亡しており,結果及び因果関係も認められる。
(3)さらに,甲は上記構成要件の客観部分について認識・認容していたといえるから,故意も認められる。
3.以上より,甲の上記行為につき,殺人罪が成立する。
以上


論文対策講座-合格答案の書き方_問題2

 以下の事例における、甲の罪責を論ぜよ。
 甲は、会社の同僚Aに強い恨みを持つに至り、Aの居住する木造平屋建ての住居(以下、「A宅」という。)に火をつけ、全焼させる目的で、A宅裏口の施錠されていなかった扉を開け、A宅内に立ち入った。
 裏口には台所があり、そこにはごみ箱(容量90L、幅468×奥行575×高さ824mm、ポリプロピレン製(易燃性))が置かれていた。
 甲は、これに放火することを思いつき、「このごみ箱に火をつければ、火はA宅の壁に燃え移るだろう。その方が、普通にA宅の壁に火をつけるより、A宅を燃やすのに有効な方法に違いない」と考えた。
 そこで甲は、そのゴミ箱の上に、持参した新聞紙をくちゃくちゃにして置き、これに所持していた簡易ライターで点火した。
 火は炎をあげて燃え上がり、ごみ箱は完全に焼失したが、A宅の壁は難燃性の壁だったため、火は燃え移らず、ただ熱の影響で床や壁の全面にわたってその表面を著しく損傷させるにとどまった。

論文対策講座-合格答案の書き方_問題2参考答案

第1.住居侵入罪(刑法130条前段)
 甲は,A宅に火をつける目的で,A宅敷地内に立ち入っている。
 Aが甲の目的を知っていれば,甲のA宅立ち入りに同意するとは考えられないため,甲の立ち入りは管理権者Aの意思に反する立ち入りといえ,「侵入」にあたる。
 よって,上記行為につき,住居侵入罪が成立する。
第2.現住建造物放火罪(刑法108条)
1(1)甲は、A宅を燃やす目的で、A宅脇にあったごみ箱に火をつけている。
 A宅は「建造物」にあたり、またAが起臥寝食の場所として日常使用していることから、「現に人が住居に使用」しているといえる。
(2)ア.では、「焼損」したといえるか。
イ.焼損とは、火が媒介物を離れて目的物に燃え移り、目的物が独立して燃焼を継続する状態に至ることをいう。
ウ.甲は、ごみ箱に「放火」している。ごみ箱は易燃性のポリプロピレンでできており、甲はA宅に燃え移らせるためにごみ箱に火をつけていることから、ごみ箱はA宅に火をつけるための媒介物といえる。
 しかし、A宅壁は難燃性であり、表面は損傷したものの、独立して燃焼を継続するには至っていない。
エ.よって、「焼損」したとはいえない。
(3)故意
ア.甲は、A宅が現に人が住居に使用する建造物であることを認識している。
また、ごみ箱に火をつけることで、A宅に火を燃え移らせることが、A宅を燃やすためにより有効な方法に違いないと考えているため、焼損の結果発生を認識している。
イ.その上で、持参した新聞紙に火をつけ、ごみ箱を燃やしていることから、上記事実につき認容しているといえる。
よって、故意も認められる。
4.以上より、甲の上記行為につき、現住建造物放火未遂罪が成立する。
第3.罪数
以上より,甲の各行為につき,�―撒鐃�入罪,��現住建造物放火未遂罪が成立し,これらは牽連犯(54条1項後段)となる。
以上


論文対策講座-刑法_問題1

 以下の事例における、甲の罪責を論ぜよ。
 V(78歳)は、数年前から自力で食事や排せつを行うことが難しい、いわゆる寝たきりの要介護状態にあり、自宅で、妻甲(68歳)の介護を受けていた。
 ある日、甲はVに食事を与えていたところ、誤って食事をVの喉に詰まらせてしまった。
 甲は、もがき苦しむVをみて、放置すればVは窒息で死亡するに違いないと思った。
 しかし、甲は、他に身寄りのないVを、Vが要介護状態になった数年前から一人で介護する生活を続け、肉体的にも精神的にも疲れ切っており、このままVが死亡すれば、先の見えない介護生活から解放されるのではないかと思った。
 そこで、甲はVを放置したところ、20分後、Vは窒息により死亡した。
 なお、甲がVの異変に気付いて10分以内に、甲がVの喉の異物を取り除いていれば、Vは助かっていた。
 また、甲は普段からVの介護をしていたため、このような作業は容易に行えた。

論文対策講座-刑法_問題1参考答案

1.甲は,窒息して苦しむVを放置し,死亡させていることから,殺人罪(刑法199条)が成立しないか。
2(1)実行行為
ア.殺人罪は作為によって規定された犯罪であるところ,甲の行為は,Vを放置するという不作為であることから,甲の行為を殺人罪の実行行為とみてよいのかが問題となる。
イ.作為によって規定された犯罪であっても,不作為によって実現することは可能である。しかし,不作為を処罰対象とすると,処罰範囲が無限に広がるおそれがある。
そこで,作為との構成要件的同価値性が認められるような不作為についてのみ,処罰可能と考える。
そして,このような構成要件的同価値性は,�〆邂抖遡海�存在し,�∈邂戮�可能であり,かつ容易である場合に認められると考える。
ウ.�,砲弔い討蓮だ莵垤坩戞ぐ�き受け,排他的支配,契約,法令,慣習,条理等により総合的に判断されると考えられる。
 本件では,甲は自らが食事を与える際,誤って食事をVの喉に詰まらせている。これは自らの過失による先行行為があるといえる。
 また,甲は,これまでも身寄りのないVを,一人で介護し続けており,事件当時もVを助けられるのは甲のみであったと考えられるため,排他的支配もある。
 さらに,甲は,Vの妻であり,民法上の扶助義務(民法752条)もある。
 以上からすると,甲には作為義務があったといえる。
 次に,�△砲弔い董す辰蓮�Vの異物を取り除くことができたため,作為可能性は認められる。また,甲は普段からVの介護をしており,このような作業は容易に行えた。
エ.以上より,�´△箸發貿Г瓩蕕譴襪海箸�ら,甲の不作為は作為と構成要件的に同価値といえる。
 よって,甲の行為は,殺人罪の実行行為にあたる。
(2)Vは死亡しており,結果も発生している。
(3)因果関係
ア.不作為における因果関係は,必要な作為がなされていれば,結果が発生しなかったことが,合理的疑いを超える程度に確実であったといえるかで判断する。
イ.本件では,甲がVの異変に気付いて10分以内に,Vの喉の異物を取り除くという作為を行っていれば,Vの死という結果が発生しなかったことは,合理的疑いを超える程度に確実だったといえる。
ウ.よって,因果関係も認められる。
(3)殺意(故意)
ア.故意とは,構成要件該当事実の認識・認容をいう。
イ.本件では,甲は,Vを放置すれば(実行行為),Vは窒息で(因果関係),死亡する(結果),と思っているため,構成要件該当事実の認識はあるといえる。
 また,甲は,上述の事情を認識しつつ,「このままVが死亡すれば」「介護生活から解放されるのではないか」と思っていることから,認容もあるといえる。
ウ.よって,殺意が認められる。
3以上より,甲がVを放置して死亡させた行為につき,殺人罪が成立する。
以上
※学習の便宜上,保護責任者遺棄致死罪についての言及がなく,端的に殺人罪の成否について論じた答案となっていますが,このように構成要件該当性から記載する場合でも,「保護責任者遺棄致死罪は成立しない」ことはどこかに示した方が良いと思います。
 たとえば,以下のように書くことが考えられます。
4.なお,上述のとおり殺人罪が成立するため,保護責任者遺棄致死罪は成立しない。
以上

論文対策講座-刑法_問題1参考答案2

1(1)甲は,窒息して苦しむVを放置し,死亡させていることから,殺人罪(刑法199条。以下「刑法」は省略。)が成立しないか。
(2)アまず,上述の行為は,保護責任者遺棄致死罪(219条,218条)にあたるとも思えるため,同罪と殺人罪との区別が問題となるが,両者は殺意の有無により区別すべきと考える。
イ.故意とは,構成要件該当事実の認識・認容をいう。
ウ.本件では,甲は,Vを放置すれば,Vは窒息で死亡すると思っているため,構成要件該当事実の認識はあるといえる。
 また,甲は,上述の事情を認識しつつ,「このままVが死亡すれば」「介護生活から解放されるのではないか」と思っていることから,認容もあるといえる。
エよって,殺意が認められるから,以下殺人罪につき検討する。
2(1)実行行為
ア.殺人罪は作為によって規定された犯罪であるところ,甲の行為は,Vを放置するという不作為であることから,甲の行為を殺人罪の実行行為とみてよいのかが問題となる。
イ.作為によって規定された犯罪であっても,不作為によって実現することは可能である。
しかし,不作為を処罰対象とすると,処罰範囲が無限に広がるおそれがある。そこで,作為との構成要件的同価値性が認められるような不作為についてのみ,処罰可能と考える。
そして,このような構成要件的同価値性は,�〆邂抖遡海�存在し,�∈邂戮�可能であり,かつ容易である場合に認められると考える。
ウ�,砲弔い討蓮だ莵垤坩戞ぐ�き受け,排他的支配,契約,法令,慣習,条理等により総合的に判断されると考えられる。
 本件では,甲は自らが食事を与える際,誤って食事をVの喉に詰まらせている。これは自らの過失による先行行為があるといえる。
 また,甲は,これまでも身寄りのないVを,一人で介護し続けており,事件当時もVを助けられるのは甲のみであったと考えられるため,排他的支配もある。
 さらに,甲は,Vの妻であり,民法上の扶助義務(民法752条)もある。
 以上より,甲には作為義務があったといえる(�―実�)。
 次に,�△砲弔い董す辰蓮�Vの異物を取り除くことができたため,作為可能性は認められる。また,甲は普段からVの介護をしており,このような作業は容易に行えた(�⊇実�)。
エ.以上より,甲の不作為は作為と構成要件的に同価値といえる。
 よって,甲の行為は,殺人罪の実行行為にあたる。
(2)Vは死亡しており,結果も発生している。
(3)因果関係
ア.不作為における因果関係は,必要な作為がなされていれば,結果が発生しなかったことが,合理的疑いを超える程度に確実であったといえるかで判断する。
イ.本件では,甲がVの異変に気付いて10分以内に,Vの喉の異物を取り除くという作為を行っていれば,Vの死という結果が発生しなかったことは,合理的疑いを超える程度に確実といえる。
ウ.よって,因果関係も認められる。
(4)殺意(故意)は,先に述べたとおり,認められる。
3.以上より,甲がVを放置して死亡させた行為につき,殺人罪が成立する。
以上


論文対策講座-刑法_問題2

以下の事例における、甲及び乙の罪責を論ぜよ。
 甲(30歳,身長175cm,体重70kg)は、生活費に窮し,強盗でもしようと考えた。
 そして,同じく生活費に窮していた友人の乙が,営業の仕事で色々な家を回っているのを思い出し、「このままではやっていけないから,強盗にでも入ろうかと思うんだが,何かいい家はないかな?分け前は半分やるから教えてくれないか?」と話した。
 乙は、自らも金に困っていたことから,この話に乗ることにした。
 そして,営業で知り合ったA(75歳,身長155cm,体重50kg)の事を思い出し,「それならAの家がいい。Aは定年退職していて,水曜日はいつも家にいる。自宅の居間の金庫に200万円くらい札束を入れている。
 金庫の番号はAが知っている。Aは年寄りだし体も小さいから,脅せば簡単に金を出すだろう。Aの家はいつも鍵をかけていないんだ。」と持ち掛けた。
 甲はこの案に従うことにした。
 甲は,Aを脅すために,出刃包丁を用意した。
 次の水曜日,甲は乙の案内でA宅に向かった。
 乙は「あれがAの家だ。俺はここで帰るからな。」と言って,その場で甲と別れた。
 甲は、乙に言われた通り,A宅施錠されていない玄関から,A宅に立ち入った。
 甲が居間に入った時,Aは同所にいたが,甲が入って来たのを見て,その場に立ちすくんだ。
 甲は,Aの姿を見るや,ジャンパーのポケットに入れていた前記出刃包丁を取り出して,Aに歩み寄り「金を出せ。」と言いながら,出刃包丁をAの目の前に突き出した。
 Aが助けてくれと大声を上げたので,甲は,Aの大声が近所の人に聞こえてしまうと思い,Aを黙らせるため,Aの胸倉を左手でつかみ,右手に持った出刃包丁の刃先をAの左頬に突き付けながら,「静かにしろ。騒ぐと殺すぞ。」と申し向けた。
 Aは恐怖の余り大声を出すのをやめ,その場にしゃがみ込んだが,甲は,Aの胸倉をつかみながら出刃包丁の刃先をAの左頬に突き付けたままの体勢で自らもしゃがみ込み,さらに,Aに対し「金を出せ。」と申し向けた。
 Aは,すっかり怯えきって,金庫を開け,中にあった200万円を,甲に渡した。
 甲はそれを受け取って立ち去り,後日乙に100万円を分け前として渡した。

論文対策講座-刑法_問題2参考答案

第1.甲の罪責
1.住居侵入罪(刑法130条前段)
 甲は,Aの金銭を盗む目的で,A宅に立ち入っている。これは管理権者Aの意思に反する立ち入りといえ,「侵入」にあたる。
 したがって,甲の立ち入りにつき,住居侵入罪が成立する。
2.強盗罪(刑法236条1項)
(1)次に,甲がAに出刃包丁を突き付けて脅し,200万円という財物を奪った行為につき,強盗罪が成立するか。
(2)ア.強盗罪における「暴行又は脅迫」とは,反抗を抑圧するに足りる程度のものをいう。
イ.本件では,甲は30歳と若く,Aは75歳と年老いているうえに,甲は身長175cm,体重70kgという体格であるのに対し,Aは身長155cm,体重55kgと,甲より二回りほども小さい。したがって,両者の体力には大きな差がある。
 また,甲は出刃包丁という殺傷力の強い武器を用い,それを被害者の身体の枢要部である左ほほに突き付けている。
 これは被害者に死の危険を感じさせ,抵抗を著しく困難にするといえる。
 さらに,甲は「静かにしろ。騒ぐと殺すぞ。」とAに強い脅迫的言辞を用いている。
 上記のような圧倒的な体力差のある者から,包丁を顔面に突き付けられつつこのように言われれば,本当に命を奪われるかもしれないと考え,抵抗する気をなくすのが通常といえる。
ウ.以上より,甲がAにナイフを突きつけ,「金を出せ」「静かにしろ。騒ぐと殺すぞ。」と申し向けた行為は,「暴行又は脅迫」にあたる。
(3)次に,Aは恐怖のあまりすっかり怯えきって,金庫を開け,中にあった200万円を,甲に渡している。
 これは上述の暴行・脅迫により畏怖したAから財物を奪ったものといえ,「強取」にあたる。
(4)甲は,上記暴行・脅迫により,財物を奪うことについて認識・認容しており,故意も認められる。
(5)以上より,甲の上記行為につき,強盗罪が成立する。
3罪数
 以上より,甲の各行為につき,�―撒鐃�入罪,��強盗罪,が成立し,�´△聾O�犯(54条1項後段)となる。
第2.乙の罪責
1.強盗罪の共謀共同正犯(60条)
(1)乙は,甲に対し,Aの家に盗みに入るよう提案し,盗みのための様々な情報を提供している。
 これにより,甲がAの家に立ち入り,結果として強盗を行っている。そこで,乙が強盗罪の共謀共同正犯となるか問題となる。
(2)乙は実行行為に加担していないが,正犯として処罰するためには,必ずしも実行行為を共同する必要はない。
 すなわち,�ゞλ邸き�共謀に基づく実行行為,��正犯意思,が認められれば,共謀共同正犯として処罰できると考える。
(3)ア�ゞλ鼎砲弔い�
 甲は乙に対し,強盗に入ることを相談している。そして,乙はこれを了承した上で,A宅を勧めている。
 そこで,甲乙は甲によるA宅での強盗につき相互に認識しているといえる。
 また,甲は自分の生活費を得るため,乙から強盗に適した家の情報を聞き出そうとしている。
 他方で乙は甲の強盗により利益を得ようとしているため,相互に利用補充しようとする意思が認められる。
 以上より,共謀が認められる。
イ.��共謀に基づく実行行為について
 甲は,A宅に入り,Aを脅して金庫から200万円を奪っている。
 これは乙の助言に基づく実行行為であり,�△睨�たす。
ウ.��正犯意思について
(ア)(役割の重要性)
 乙は,強盗に適した家として,A宅を甲に紹介しているが,これは乙のみが営業の仕事で知りえた情報である。
 また,場所を案内しただけでなく,鍵がかかっていないという,侵入のために重要な情報を甲に教えている。
 さらに,A宅には高額の現金があること,Aが高齢で体格も小さく非力であるため,脅すのに適しているといった,強盗を遂行する上で重要な情報も甲に教えている。
 そのうえ,Aが金庫の暗証番号を知っているため,Aがいる時間を教え,Aを脅して金庫を開けさせるという,強盗の目的を達するために必要不可欠な情報も提案している。
 これらの情報がなければ,甲はA宅に強盗に入ることはおよそ不可能であり,乙の役割は非常に大きいといえる。
(イ)(利益の分配)
 乙は分け前として,100万円を受け取っている。これは甲の得た200万円の半分にもあたる。
 よって,乙が本件犯行から得た利益は大きいといえる。
(ウ)(動機)
 乙も生活費に困窮しており,分け前をもらうために甲の話に乗ったのであるから,本件犯行を自らのために行う強い動機があったといえる。
(エ)以上より,乙には正犯意思も認められる。
(4)以上より,乙の行為につき,強盗罪の共謀共同正犯が成立する。
2.住居侵入罪の共謀共同正犯
(1)上述のとおり,乙は甲に対し,A宅に立ち入ることを提案し,甲はこれに従って(�―実�)A宅に立ち入っている(�⊇実�)。
また,乙はA宅侵入の重要情報を与え,100万円という利益を受けている点も前述のとおりである(��充足)。
(2)したがって,乙は住居侵入罪の共謀共同正犯となる。
3.罪数
 乙の行為につき,甲との間で,住居侵入罪,強盗罪の共同正犯となり,これらは牽連犯となる。
以上


論文対策講座-刑法_問題3

 以下の事例における,甲の罪責を論ぜよ。
 甲は,Xを呼び出して薬剤を飲ませて昏睡させ,昏睡したXを,呼び出した場所から5キロほど,時間にして車で15分ほど離れた場所にある港に運び,車ごと海中に沈めて殺害することを計画した。
 甲は,Xに電話をかけ,「ちょっと話があるから付き合え。」などと言ってXを呼び出した。甲は,古い自己所有の普通乗用自動車を運転してXとの待ち合わせ場所に向かったが,その少し手前のコンビニエンスストアに立ち寄り,カップ入りのホットコーヒー2杯を購入し,そのうちの1杯に,あらかじめ用意しておいた睡眠薬5錠分の粉末を混入させた。
 甲は,程なく待ち合わせ場所に到着し,そこで待っていたXに対し,「乗れ。」と言い,Xを車の助手席に乗せた。甲は,乗車してすぐ,車内で,上記睡眠薬入りコーヒーをXに差し出した。Xは,甲の意図に気付くことなくこれを飲み干し,その約30分後,昏睡状態に陥った。
 甲は,Xが昏睡したことを確認し,ひとけのない場所に車を止め,車内でXの手足をロープで縛り,Xが自由に動けないようにした上,昏睡したままのXを助手席から引きずり出して抱え上げ,車のトランク内に入れて閉じ込めた。
 なお,上記睡眠薬の1回分の通常使用量は1錠であり,5錠を一度に服用した場合,昏睡状態には陥るものの死亡する可能性はなく,甲も,上記睡眠薬入りコーヒーを飲んだだけでXが死亡することはないと思っていた。
 甲は,Xをトランクに入れてすぐの午前3時40分頃,電話をかけるため路上で停車した。
 甲は,怪しまれないようにするため,車のエンジンを切り,ライトも消灯した状態で,自らは車を離れて電話を始めた。その停車した地点は,車道の幅員が約5mの車線の区別がない,ほぼ直線の見通しのよい道路上であった。
 上記車両が停車して数分後,後方からAの運転する普通乗用自動車が走行してきた。Aは前方不注意のため停車中の上記車両に至近距離に至るまで気付かず,同車のほぼ真後ろから時速約60�劼任修慮緝瑤膨鋲佑靴拭�これによって同車後部のトランクは,その中央部がへこみ,トランク内に押し込まれていたXは,この追突により死亡した。

論文対策講座-刑法_問題3_参考答案

第1.監禁致傷罪(刑法221条,220条)
1.甲が,Xに薬を飲ませてこん睡させ,車のトランクに入れた行為が監禁致傷罪にあたるか。
2.甲がXを車のトランクに入れた行為は,人が一定の区画から脱出することを著しく困難にしているといえ,「監禁」にあたる。
 なお,Xは昏睡しており,現実的な移動の自由は害されていない。
 しかし,同罪の保護法益は,可能的な移動の自由で足り,Xにもかかる自由は認められる。
3.また,甲が飲ませた薬により,Xは昏睡しており,生理的機能を害されているといえるから,傷害結果も認められる。
4.以上より,甲の上記行為には,監禁致傷罪が成立する。
 なお,死の結果については以下殺人罪として評価する。
第2.殺人罪(刑法199条)
1.甲が,Xに薬剤を飲ませて昏睡させ,結果としてXが死亡した点につき,殺人罪が成立しないか。
2.実行の着手
(1)甲の計画では,Xを昏睡させてトランク内に監禁し(第1行為),車ごと海中に沈めることで(第2行為),X殺害の目的を遂げようとした。
 しかし,第2行為を行う前にXが死亡しているため,第1行為につき,殺人の実行の着手を肯定できるか。
(2)実行の着手とは,構成要件の予定する結果を発生させる現実的危険性を有する行為の開始時点をいう。
 第1行為時にかかる危険を認めるには,�‖茖厩坩戮�,第2行為を確実かつ容易に行うために必要不可欠の行為であり,��第1行為に成功した場合,それ以降の行為を行う上で障害となる特段の事情がなく,�B茖厩坩戮搬茖温坩戮箸隆屬忙�間的場所的近接性が認められることを要する。
(3)(�,砲弔い董�
 Xを昏睡させたうえでトランクに入れてしまえば,Xは車外に出て溺死を避けることはほとんど不可能となる。
 そこで,第1行為は車ごとXを海中に沈める上で必要不可欠といえる。
(�△砲弔い董�
 第1行為に成功しさえすれば,Xは外部から見えず,しかも昏睡しているため助けを求めることもできない。
 そこで殺害計画を遂行する上で障害となるような事情もない。
(��について)
 監禁行為と,車を海中に沈める行為は連続して行われることが想定されている。
 また,待ち合わせ場所から港までは5キロほど離れているが,車で15分ほどで移動できるし,車のトランク内から脱出することは困難であるから,時間的場所的近接性もあるといえる。
 以上より,甲の監禁行為は,Xが死亡する現実的危険性を有する行為の開始時点といえる。
(4)よって,殺人罪の実行の着手があるといえる。
3.結果及び因果関係
(1)Xは結果として死亡したが,その死因は,第三者Aの追突による。
 そこで,甲の監禁行為とXの死亡との間に因果関係が認められるか。
(2)刑法上の因果関係は,結果を行為に帰責出来るかの問題である。
 そこで,行為の危険が結果へと現実化したといえる場合に,因果関係が認められると考える。
(3)(第1行為の危険性)
 トランク内は,およそ人が入ることを予定して作られていない。
 また,自動車事故の際には,トランクが潰れてクッションとなり,乗員スペースを保護する役割を果たす。
 このような場所に昏睡させた人間を監禁する行為の危険性は非常に高い。
(介在事情の異常性)
 停車中の車の後方から自動車が衝突することは,一般に交通事故として起こりうる。
 しかも,本件では,甲の車は,深夜3時40分頃という暗い時間帯に,エンジンとライトも切った状態で停車している。
 このような車を走行中発見するのは困難である。
 しかも,この時間帯は,運転者の注意も緩みがちである。
 さらに,幅員が5mしかない狭い道路に停まっていることから,避けるのも難しい。
 したがって,Aの追突は異常とまではいえない。
(寄与度)
 Xの死因は,直接的にはAの追突である。
 しかし,そもそもXがトランクにいなければ,追突により死亡することはなかったといえるし,人がトランクの中という危険な場所にいることは通常は起こりえない。
 すなわち,追突によるXの死は,第1行為によって引き起こされたといえる。
 したがって,第1行為の寄与度が大きいといえる。
(4)以上より,甲の監禁行為によるX死亡の危険が,X死亡という結果に現実化したといえる。
 よって,因果関係が認められる。
4.故意
(1)甲は,Xを海中に沈めて溺死させようとしていたが,現実にはXは追突により死亡している。
 このように甲の計画と因果経過が異なる場合,故意が認められるか。
(2)因果関係も客観的構成要件要素であり,その認識も故意の成立には必要と解される。
 もっとも,法定的符合説からは,認識した因果経過と現実の因果経過が構成要件の範囲内で符合していれば,故意は認められると解される。
(3)本件でも,構成要件の範囲内での符合は認められるため,因果関係を認めてよい。
5.以上より,甲の上記行為につき,殺人罪が成立する。
第3.罪数
 以上より,甲の各行為に監禁致傷罪,殺人罪が成立し,両者は併合罪(45条前段)となる。
以上


論文対策講座-刑法_問題4

 学生の甲と乙が深夜繁華街を歩いていたところ、一見してやくざ風のAが、甲に因縁をつけ、甲の胸ぐらをつかんで付近の路地に引っ張り込み、ナイフを甲に突き付けた。
 甲と乙は、身の危険を感じ、こもごもAの顔面を殴って路上に転倒させ、ナイフを奪い、これを遠くに投げ捨てた。
 甲はその場から逃げようとしたが、乙は、Aが転倒したまま「待ちやがれ。」と怒鳴って右手で上着のポケットを探っているのを見て、Aがまた刃物を取り出そうとしているものと勘違いし、Aの腹部を数回力まかせに蹴りつけた。
 その間、甲は、乙を制止することなく、黙って見ていた。
 Aは、乙の暴行により、すい臓破裂の傷害を負って死亡した。
 甲及び乙の罪責を論ぜよ。
(平成9年旧司法試験刑法第1問)

論文対策講座-刑法_問題4_参考答案

第1.甲と乙がAの顔面を殴りつけた行為(第1行為)
1.第1行為につき,暴行罪(208条)の共同正犯(60条)とならないか。
2(1)共同正犯の成立には,�ゞζ閏孫圓了�実,��共同実行の意思,が必要である。
(2)�,砲弔い�
 甲乙はAを殴打しており,これは身体に対する有形力の行使といえ,「暴行」にあたる。
 また,甲と乙は,以下述べる共謀に基づき,こもごもAを殴打していることから,共同実行の事実はある。
(3)�△砲弔い�
�◆紛ζ閏孫圓琉媚廖砲鯒Г瓩襪砲蓮て団蠅糧蛤瓩砲弔い討琉媚從⇒蹐�必要となる。
 この意思連絡は,犯意の相互認識,および,利用補充意思からなる。
 さらに,共同正犯は正犯であるから,正犯意思が必要である。
 甲と乙は,Aからの攻撃を受け,互いに身を守るために第1行為に及んでいるから,上述の意味での意思連絡及び正犯意思は問題なく認められる。
 したがって,共同実行の意思もある。
3(1)もっとも,甲と乙は,Aから身を守るために第1行為を行っている。
 そこで正当防衛(36条1項)として違法性が阻却されないか。
(2)ア.急迫不正の侵害
 Aは,甲の胸倉をつかみ,付近の路地に引っ張り込み,ナイフを突きつけている。
 これは,甲の身体という法益への危険が現に存在しているといえ,「急迫不正の侵害」はある。
イ.防衛の意思
 防衛の意思とは,急迫不正の侵害を認識しつつ,これを避けようとする単純な心理状態をいう。
 本件では,甲と乙は,Aからの侵害に身の危険を感じて,これを避けようと第1行為を行っているといえるから,「防衛するため」といえる。
ウ.相当性
 相当性は,侵害行為の危険性と,防衛行為の危険性の比較により判断する。
 本件では,甲がAに因縁をつけられた場所は,繁華街で人通りが多かったものの,時間帯は深夜であり,路地という人の少ない場所に引っ張り込まれているから,乙以外の助けを期待できない。
 そのような状況で,やくざ風の風貌のAがナイフを持ち出していることから,脅すだけでなく実際にナイフで刺されることもありえるから,生命侵害の危険もありえたといえる。
 そうすると,たしかに甲乙は,A1人に対し二人で暴行を行っており,また顔面を殴打していることを考慮しても,相手がナイフを持ち出すかもしれないのに対し,素手であることや,甲乙はやくざ等ではない素人であると思われることから,防衛行為の危険性は侵害行為の危険性を下回り,相当性はあるといえる。
(3)以上より,甲と乙の第1行為について,正当防衛が成立する。
第2.乙がAの腹部を力任せに蹴りつけた行為(第2行為)
1.第2行為につき,傷害致死罪(205条,204条)が成立しないか。
(1)ア.前提として,第2行為を,第1行為と一体のものとして検討すべきか,それとも別個の行為として検討すべきか問題となる。
イ.行為は主観と客観の統合体であるから,行為の一個性は,主観面と客観面を総合して判断すべきと考える。
ウ(主観)乙は,Aが転倒したまま「待ちやがれ」と怒鳴って右手で上着のポケットを探っているのを見て,Aが刃物を取り出そうとしていると認識している。
 そうすると,乙は,先のAに対する防衛行為に引き続き,Aからの攻撃を防ごうと認識しているとも思える。
 しかし,第2行為の時点で,Aはナイフを捨てられており,手にしているわけではない。また,Aは転倒しており,甲は逃げようとしていることから,乙も逃げようと思えば容易に逃げられる状況と考えられる。
 それにもかかわらず,乙はAの腹部を,数回も力任せに蹴りつけている。
 これは当初の防衛の意思の連続する状況のものとはいいがたい。
(客観)たしかに,第2行為は,第1行為の現場で,第1行為後すぐに行われたから,時間的場所的には近接しているといえる。
 また,Aは倒れてすぐに,待ちやがれと言いながら上着のポケットを探っているから,Aの甲乙に対する攻撃の意思は続いていたといえる。
 しかし,Aは,甲らの暴行により路上に転倒しており,しかもナイフも捨てられていることから,甲からの侵害行為は, 客観的にはいったん終了しているというべきである。
エ以上より,第2行為は第1行為と別個のものと評価すべきと考える。
2.構成要件該当性
第2行為により,Aはすい臓破裂の「傷害」を負っている。
 また,その結果死亡しており,故意も問題なく認められる。
3.誤想過剰防衛について
(1)Aは右手で上着のポケットを探っているものの,既に転倒しており,侵害の急迫性はないといえる。
 よって,第2行為につき正当防衛は成立しない。
(2)ア.もっとも,誤想防衛が成立し,故意が阻却されないか。
イ.故意責任の本質は,犯罪事実を認識し,反対動機が形成可能であるにもかかわらず,あえて行為を行う点にある。
 そして,急迫不正の侵害があると誤信した場合,自らの行為を正当防衛だと認識する以上,反対動機が形成できない。
 そこで故意を阻却する。
 もっとも,過剰性について認識がある場合,過剰性については反対動機が形成できるため,故意は阻却されない。
ウ.本件では,乙は,Aが刃物を取り出そうとしていると誤信している。  しかし,Aはいったんナイフを取り上げられ,しかも転倒しており,Aの侵害の程度は,第1行為の時と比べて著しく弱まっていることを,乙は認識していたといえる。
 それにもかかわらず,Aの腹部という枢要部をめがけて,力任せに数回も蹴りつけることは,内臓破裂などで死亡する危険性も十分にある非常に危険な行為である。
 したがって,乙に過剰性の認識はあったといえる。
エ.以上より,故意は阻却されない。
(3)ア.では,このような場合にも,過剰防衛(36条2項)の規定が準用できないか。
イ.過剰防衛の根拠は,緊急状況においては行き過ぎがあっても強く非難できないという責任減少にある。
 そして,誤想過剰防衛の場合にも,このような趣旨が妥当する場合には,過剰防衛の規定を準用できると解する。
ウ.本件では,乙は第1行為の際,やくざ風の男であるAに,ナイフで脅されていることから,強い恐怖を感じたはずであり,そこで第2行為の際,Aが起き上がってきて刃物で攻撃されることを強く恐れたと思われる。
 このような状況では,第2行為の非難可能性も減少するといえる。
 よって,過剰防衛の規定を準用できると考える。
(4)以上より,乙の第2行為は傷害致死罪となるが,過剰防衛を準用し刑の任意的減免を受ける。
第3.第2行為につき甲が傷害致死罪の共同正犯となるか
(1)本件のように,侵害現在時における暴行が正当防衛と認められる場合には、侵害終了後の暴行については、侵害現在時における防衛行為としての暴行の共同意思から離脱したかどうかではなく、新たに共謀が成立したかどうかを検討すべきであって、共謀の成立が認められるときに初めて、侵害現在時及び侵害終了後の一連の行為を全体として考察し、防衛行為としての相当性を検討すべきである。
(2)本件では,甲は,乙と暴行を加えた後,その場から逃げようとしており,甲乙間で新たな共謀が成立したとはいえない。
 したがって,甲は第2行為につき共同正犯とならない。
第4.罪数
 以上より,甲は罪責を負わず,乙はAに対する傷害致死罪の罪責を負うが,過剰防衛の規定が準用され,刑が任意的に減免される。
以上


論文対策講座-刑法_問題5

 甲は,友人乙,丙に対して,Aが旅行に出かけて不在なので,A方に侵入し,金品を盗んでくるように唆した。
 乙,丙は,A方に侵入したところ,予期に反しAが在宅しているのに気付き,台所にあった包丁でAを脅して現金を奪い取ろうと相談し,Aに包丁を突き付けた。
 ところが,Aが激しく抵抗するので,乙は,現金を奪うためにAを殺害しようと考え,その旨丙にもちかけた。
 丙は,少なくとも家人を殺したくないと思っていたことから,意外な展開に驚き,「殺すのはやめろ。」と言いながら乙の腕を引っ張ったが,乙は,丙の制止を振り切って包丁でAの腹部を刺し,現金を奪いその場から逃走した。
 丙は,Aの命だけは助けようと考え,乙の逃走後,直ちに電話で救急車を呼んだが,Aを介抱することなくその場に放置してA方を立ち去った。
 結局Aは,救急隊員の到着が早く,一命を取り留めた。
甲,乙及び丙の罪責を論ぜよ(特別法違反の点は除く。)。
(平成12年旧司法試験刑法第1問)

論文対策講座-刑法_問題5_参考答案1(丙の離脱を否定し既遂とした場合)

第1.乙の罪責
1.住居侵入罪(130条前段)
 乙は強盗目的でA方という「住居」に立ち入っている。
 これは管理権者Aの意思に反する立ち入りといえ「侵入」にあたる。
 したがって住居侵入罪が成立する。
2.強盗殺人未遂罪(243条240条後段236条1項)
(1)ア.乙はAを包丁で脅した上、Aの腹部を包丁で刺し、現金を奪っている。
 包丁は人の生命を奪うに十分な殺傷力を有しておりしかも乙は包丁で実際にAの腹部を刺している。
 これは反抗を抑圧するに十分に足りる「暴行」といえる。
イ.またAは包丁で刺されその間に乙は現金を奪っている。
 これは反抗抑圧状態を利用して財物を奪取したといえ「強取」にあたる。
ウ.以上より乙は「強盗」といえる。
(2)加重結果について
ア.乙がAの腹部を包丁で刺した行為は死の結果発生の現実的危険性を有する行為といえる。
 そこで乙は強盗殺人罪の罪責を負うか問題となる。
イ.ここでAを殺害して現金を奪おうとしていることから殺意が認められる。
 この場合にも240条が適用されるか問題となる。
 240条には「よって」の文言がないことおよび強盗が殺意をもって人を死亡させることは刑事学上顕著な事例といえることから同条は死の結果につき故意ある場合も含むといえる。
 よって殺意ある場合も240条が適用される。
ウ.既遂・未遂についてはどのように考えるべきか。
 240条の既遂・未遂は同条が生命・身体を特に保護する趣旨と考えられることから死の結果の既遂・未遂により判断すべきである。
 Aは最終的に一命を取り留めているから未遂となる。
エ.以上より乙は強盗殺人罪の未遂の罪責を負う。
3.以上より乙は住居侵入罪・強盗殺人未遂罪の罪責を負い両者は牽連犯(54条1項前段)となる。
第2.丙の罪責
1.住居侵入罪
 丙は乙と共に住居侵入罪の共同正犯としての罪責を負う。
2.強盗致傷罪
(1)丙は包丁でAを脅して現金を奪い取ろうと乙と相談しこの謀議に基づきAに包丁を突きつけている。
 これは強盗罪の実行の着手にあたる。
(2)その後乙はAから財物を奪取しAの腹部を刺している。
 しかし丙は乙がAを殺害することを持ち掛けたにもかかわらず「殺すのはやめろ。」といって乙を制止している。
 そこで強盗殺人罪についての意思の連絡があったとはいえない。
 したがって強盗殺人罪の共同正犯とはならない。
(3)ア.もっとも丙は基本犯である強盗につき乙と共同しており加重結果としての殺人未遂(傷害)の結果が生じている。
 そこで故意のない丙も強盗致傷罪の罪責を負うと考えられる。
 しかし丙が乙を制止したためこの段階で共犯関係から離脱しており強盗致傷罪の結果については帰責されないのではないか。
イ.共犯の処罰根拠は結果発生につき物理的・心理的因果を及ぼす点にある。
 そこで離脱を認めるには物理的・心理的因果を除去する必要がある。
 本件では丙は「殺すのはやめろ」といいながら乙の手を引っ張ったが乙に振り切られている。
 これでは強盗という基本犯から生じる死の結果発生の危険性につき物理的にも心理的にも因果を除去したとはいえない。
 したがって離脱は認められないと考える。
ウ.以上より丙の行為につき強盗致傷罪が成立する。
(4)ア.丙はAの命だけは助けようとしていることから中止犯(43条但書)とならないか。
イ.しかし,中止犯は未遂犯の規定である。  本件では丙に離脱が認められず,強盗致傷罪が既遂となるため,中止犯の規定は適用されない。
3.以上より丙は住居侵入罪強盗致傷罪の罪責を負い両者は牽連犯となる。
第3.甲の罪責
1.甲は乙丙に対してA方に侵入し金品を盗んでくるよう唆している。
 これは住居侵入罪及び窃盗罪(235条)の教唆犯(61条)にあたる。
 ここで住居侵入の教唆については問題なく成立するが窃盗教唆につき乙丙が強盗殺人ないし強盗致傷罪という異なる犯罪を行っているため成立しないのではないかが問題となる。
2.故意責任の本質は規範に直面し反対動機が形成できるにもかかわらずあえて犯罪を行う点にある。
そして規範は通常構成要件に明示されているから原則として構成要件該当事実を認識・認容していれば故意責任を問いうる。
ここで認識した事実と現実に起こった事実とが異なる構成要件にまたがる場合構成要件に重なり合いが認められる範囲で反対動機が形成できるからこの限りで故意責任を問いうる。
3.窃盗罪と強盗致傷・強盗殺人罪は財産犯であり財物の奪取罪である点で共通しており重なり合いが認められる。
 そこで軽い窃盗の範囲で故意責任を問いうる。
4.以上より甲は住居侵入罪及び窃盗罪の教唆犯となる。
以上

論文対策講座-刑法_問題5_参考答案2(丙の離脱を認めた場合の丙中止犯検討部分)

第2.丙の罪責
1.住居侵入罪
 丙は,乙と共に住居侵入罪の共同正犯としての罪責を負う。
2.強盗殺人罪
(1)丙は,包丁でAを脅して現金を奪い取ろうと乙と相談し,この謀議に基づきAに包丁を突きつけている。
 これは強盗罪の実行の着手にあたる。
(2)その後,乙はAから財物を奪取し,Aの腹部を刺している。
 そこで,乙と丙は強盗殺人罪の共同正犯とならないか。
(3)ア.しかし,丙が乙を制止したため,この段階で共犯関係から離脱しており,強盗殺人罪の結果については帰責されないのではないか。
イ.共犯の処罰根拠は,結果発生につき物理的・心理的因果を及ぼす点にある。
 そこで,離脱を認めるには,物理的・心理的因果を除去する必要がある。
 本件では,丙は「殺すのはやめろ」といいながら乙の手を引っ張ったが,乙に振り切られている。
ウ.たしかに,これでは,強盗という基本犯から生じる死の結果発生の危険性につき,物理的にも心理的にも因果を除去したとはいえない。とも思える。
 しかし,丙は家人を殺す気は全くなく,乙を制止しようとしている。それにもかかわらず,乙は丙を振り切って本件犯行に及んでいる。
 この時点で,丙は乙とは対立する立場にあり,心理的因果が除去されたといえる。
 また,腕を引っ張って制止行為に及んだ時点で,物理的因果ももはや除去されたといえる。
 したがって,離脱が認められると考える。
エ.以上より,丙の行為につき強盗殺人未遂罪が成立する。
(4)ア.丙は,Aの命だけは助けようとしていることから,中止犯(43条但書)とならないか。
イ.「自己の意思により」
 同条の趣旨は,犯罪を中止した者に対する非難可能性が弱まるという責任減少にあると考えられる。
 そこで,「自己の意思により」とは,悔悟の念に基づくことが必要と解される。
 丙は,元々家人を殺したくないと考えており,命だけは助けようとしていることから,悔悟の念は認められるといえる。
 したがって,「自己の意思により」といえる。
ウ.「中止した」
 同条の趣旨は責任減少にあると考えられるため,結果発生防止のための真摯な努力がある場合に,「中止した」といえる。
 本件では,丙は単に救急車を呼んだだけで,介抱することもなくその場を立ち去っている。これでは真摯な努力があったとはいえない。
 したがって,「中止した」とはいえない。
エ.以上より,中止犯の規定の適用は認められない。
3.以上より,丙は住居侵入罪,強盗致傷罪の罪責を負い,両者は牽連犯となる。


論文対策講座-刑法_問題6

以下の事例に基づき,Vに現金50万円を振り込ませた行為について,甲,乙の罪責を論じなさい(特別法違反の点を除く。)。
1 甲は,友人である乙に誘われ,以下のような犯行を繰り返していた。
 �� 乙は,犯行を行うための部屋,携帯電話並びに他人名義の預金口座の預金通帳,キャッシュカード及びその暗証番号情報を準備する。
 �� 乙は,犯行当日,甲に,その日の犯行に用いる他人名義の預金口座の口座番号や名義人名を連絡し,乙が雇った預金引出し役に,同口座のキャッシュカードを交付して暗証番号を教える。
 �� 甲は,乙の準備した部屋から,乙の準備した携帯電話を用いて電話会社発行の電話帳から抽出した相手に電話をかけ,その息子を装い,交通事故を起こして示談金を要求されているなどと嘘を言い,これを信じた相手に,その日乙が指定した預金口座に現金を振り込ませた後,振り込ませた金額を乙に連絡する。
 �� 乙は,振り込ませた金額を預金引出し役に連絡し,預金引出し役は,上記キャッシュカードを使って上記預金口座に振り込まれた現金を引き出しこれを乙に手渡す。
 �� 引き出した現金の7割を乙が3割を甲がそれぞれ取得し,預金引出し役は,1万円の日当を乙から受け取る。
2 甲は,分け前が少ないことに不満を抱き,乙に無断で,自分で準備した他人名義の預金口座に上記同様の手段で現金を振り込ませてその全額を自分のものにしようと計画した。そこで甲は,インターネットを通じて,他人であるAが既に開設していたA名義の預金口座の預金通帳,キャッシュカード及びその暗証番号情報を購入した。
3 某日,甲は,上記1の犯行を繰り返す合間に,上記2の計画に基づき,乙の準備した部屋から,乙の準備した携帯電話を用いて,上記電話帳から新たに抽出したV方に電話をかけ,Vに対し,その息子を装い 「母さん。俺だよ。どうしよう。俺,お酒を飲んで車を運転して,交通事故を起こしちゃった。相手のAが 『示談金50万円をすぐに払わなければ事故のことを警察に言う 』って言うんだよ。警察に言われたら逮捕されてしまう。示談金を払えば逮捕されずに済む。母さん,頼む,助けてほしい 」などと嘘を言った。
 Vは,電話の相手が息子であり,50万円をAに払わなければ,息子が逮捕されてしまうと信じ,50万円をすぐに準備する旨答えた。
 甲は,Vに対し,上記A名義の預金口座の口座番号を教え,50万円をすぐに振り込んで上記携帯電話に連絡するように言った。
 Vは,自宅近くのB銀行C支店において,自己の所有する現金50万円を上記A名義の預金口座に振り込み 上記携帯電話に電話をかけ甲に振込みを済ませた旨連絡した。
4 上記振込みの1時間後,たまたまVに息子から電話があり,Vは,甲の言ったことが嘘であると気付き,警察に被害を申告した。
 警察の依頼により,上記振込みの3時間後,上記A名義の預金口座の取引の停止措置が講じられた。その時点で,Vが振り込んだ50万円は,同口座から引き出されていなかった。
(平成25年予備試験刑法の一部を抜粋したもの)

論文対策講座-刑法_問題6_参考答案

第1 甲の罪責
1 Vに現金50万円を振り込ませた行為について,詐欺罪(246条1項)の成否が問題となる。
2 まず,Vは甲が準備したA名義の口座に50万円を振り込んでいる。これは甲が銀行に対する預金債権という「財産上の利益」を取得したにすぎず,詐欺利得罪(246条2項)となるとも思える。
 しかし,A名義の口座である以上,甲が銀行に対する預金債権を取得したとはいえない。また,甲はA名義の口座の預金通帳,キャッシュカードを持っており,暗証番号も知っている。そこで甲はA名義の口座内の金銭を自由に引き出すことができる。したがって,A名義の口座に入金された金銭という「財物」につき事実上の支配を得ているか否かの問題といえ,1項詐欺につき検討する。
3(1) 欺く行為
 甲は,Vに対し,息子を装い,お酒を飲んで事故を起こしたため示談金50万円を支払う必要があること,支払わなければ警察に通報され逮捕されてしまうことを伝えている。飲酒運転は厳しく処罰されるため,親であれば息子のために示談金を支払い,逮捕を免れさせたいと思うのが自然であるから,甲の言葉により,Vは50万円を支払わなければならないという錯誤に陥る。
 したがって,甲の行為はVの錯誤に基づく処分行為に向けられているといえ,欺く行為といえる。
(2) 錯誤及び処分行為
Vは上述のように錯誤に陥り,これに基づきAの口座に50万円を振り込んでいる(処分行為)。
(3) 財物の移転
 もっとも,この振り込みの後,Vは電話が嘘だと気づき,警察に被害を申告したため,A名義の預金口座の取引が停止され,甲は現金を引き出せなかった。そこで財物の移転は未だなく,未遂とならないか。
 しかし,前述のように,A名義の口座に振り込まれた現金につき,甲は自由に引き出すことができる。そして,Vが甲の電話の嘘に気づいたのは,振り込みから1時間後であり,預金口座の取引が停止されたのは3時間後である。この間甲は自由に現金を引き出せた以上,すでに口座内の金銭に対し,甲は事実上の支配を得ていたといえる。よって財物の移転はあったといえる。
(4) 因果関係・故意
 以上につき一連の因果経過をたどっており,故意に貫かれていることには問題ない。
4 よって,甲の上行為につき詐欺既遂罪が成立する。
第2 乙の罪責
1 乙は,Vに現金50万円を振り込ませた行為について,詐欺罪の共謀共同正犯(60条)となるか。
 乙は実行行為に加担していないが,正犯として処罰するためには,必ずしも実行行為を共同する必要はない。すなわち,�ゞλ邸き∪吉醗媚廖き6λ鼎亡陲鼎�実行行為,が認められれば,共謀共同正犯として処罰できると考える。
2(1) �ゞλ鼎砲弔い�
 乙は,甲と共に,他人名義の携帯電話と預金口座の通帳・キャッシュカード・暗証番号を用意し,準備した部屋で電話帳から相手を抽出して電話をかけ,その息子を装い,交通事故を起こして示談金を装って上述の預金口座に現金を振り込ませる犯行を繰り返しており,いわゆる振り込め詐欺についての共謀(� 砲�認められる。
(2) �∪吉醗媚廚砲弔い�
 乙は,犯行を行うための部屋,携帯電話,他人名義の通帳といった,犯行に必要不可欠な道具を準備している。また,犯行当日の甲への連絡も乙が行い,足がつきやすい預金の引き出し役も乙が雇っている。さらに,振り込みの後の引き出し役への連絡も乙が行っている。以上より,犯行に対する乙の役割は重要である。
 また,引き出した現金は乙に手渡され,分け前も乙が7割ももらっており,実行犯である甲はわずか3割,危険な引き出し役は1万円しかもらっていないことから,利益の多くは乙が得ているといえる。
 以上より,�△�認められる。
(3) �6λ鼎亡陲鼎�実行行為について
 では,甲がVから50万円を振り込ませた行為が,乙との共謀に基づくといえるか。
 当初の共謀では,乙が部屋,携帯電話及び,他人名義の口座の通帳等を準備し,犯行当日,甲に対してその日の犯行に用いる口座の情報を連絡し,引き出し役も乙が用意することとなっている。
 本件では,たしかに甲は乙の用意した部屋で,乙の用意した携帯電話を用いている。また振り込め詐欺の手口も共通している。
 しかし,口座は甲がインターネットを通じて準備しており,引き出しも甲自身が行っている。しかも犯行時に乙は何の連絡も取っていない。これは乙を介在させず自ら犯行を行い,すべての利益を甲自身に帰属させるためである。このような犯行を甲が行うことは,乙にとって全く想定外であり,当初の共謀と無関係な犯行といえる。
 以上より,本件犯行は,乙との当初の共謀の範囲外といえ,��は認められない。
3 以上より,乙は本件甲の犯行につき罪責を負わない。
以 上