団体Aが、次期国会で審議される予定のB法案について,その危険性を説明する講演会を開催するためY市の設置・管理する市民会館の使用の許可を申請したところ、Y市長は、団体Aの活動に反対している他の団体が右講演会の開催を実力で妨害しようとして市民会館の周辺に押しかけ、これによって周辺の交通が混乱し市民生活の平穏が害されるおそれがあるとして、団体Aの申請
を不許可とする処分をした。
上の事例における憲法上の問題点について論ぜよ。
(平成8年旧司法試験憲法第1問より)
1本件では,Y市長による市民会館使用不許可処分により,団体Aが市民会館で,B法案に関する講演会を行う自由が制約されている。
2市民会館でB法案に関する講演会を行う自由は,集会の自由(憲法21条1項)に含まれ,憲法上保障される。
3(1)ア市民会館で講演会を行うことは,様々な意見を発表することで自己の人格形成に資する点で,自己実現に資する。
また,本件講演会は,次期国会で審議予定のB法案に関するものであり,政治的意見の発表・討論を内容とすると考えられるから,自由な討論を確保することで,自己統治に資する。
このように,市民会館でB法案に関する講演会を行う自由は,集会の自由の中でも特に重要な権利である。
イまた,不許可処分により,市民会館の利用は一切できなくなることから,制約の程度は非常に大きいといえる。
ウ以上より,講演会の不許可処分の合憲性は厳格に判断すべきである。具体的には,講演会の開催により,�ゞ瓩ぞ�来,実質的な害悪を引き起こす蓋然性が明白であること,�△修粒屋�が重大であること,��その害悪を避けるために,当該規制が必要不可欠であること,を満たさない限り違憲となると考える。
(2)以上をもって,本件不許可処分の合憲性を検討する。
ア�,砲弔い�
Y市長は,A団体が講演会を行うことで,他の団体が市民会館周辺に押しかけ,周辺の交通が混乱し,市民生活の平穏が害されるおそれがある,としている。
たしかに,講演会を行えば直ちに他の団体がおしかけるのであれば,近い将来といえる。
しかし,「おそれがある」というだけでは,実際に他の団体がそのような行動をとる蓋然性が明白とまではいえない。
イ�△砲弔い�
交通秩序や市民生活の平穏は,第三者の重要な権利といえるから,これが害されるならば重大な害悪の発生はあるといえる。
ウ��について
他の団体が交通秩序を乱したり,市民生活の平穏を害したりするというのであれば,そのような害悪発生の具体的危険が生じた場合に,その団体を規制すれば足りる。よって,市民会館利用を不許可処分とすることは,害悪発生防止のため必要不可欠とはいえない。
4以上より,Y市長の処分は,団体Aが市民会館でB法案に関する講演会を行う自由を不当に制約し,違憲である。
以上
問題
13歳未満の子供の親権者が請求した場合には,国は,子供に対する一定の性的犯罪を常習的に犯して有罪判決が確定した者で,請求者の居住する市町村内に住むものの氏名,住所及び顔写真を,請求者に開示しなければならないという趣旨の法律が制定されたとする。
この事例に含まれる憲法上の問題について,必要に応じて対立する見解にも触れつつ論じなさい。
(平成16年旧司法試験憲法を改題)
第1制約される権利
1本件法律により,性犯罪の前科を有する者(以下,「対象者」という。)が,自己の犯罪履歴と共に,氏名・住所・顔写真という情報を公開されない自由が制約されている。これらの情報は,個人の重要な情報であり,人格的生存に必要不可欠といいうるから,プライバシー権として憲法13条で保障されると考える。
第2違憲審査基準
(1)合憲とする立場からは,以下のような主張が考えられる。
まず,本件は,性犯罪という,国民にとって重要な関心事に関する情報であることから,情報の性質上,特に公開の必要性が高い。
次に,本件情報の開示請求は,13歳未満の子供の親権者に限定されており,しかも常習者として有罪判決が確定した者と,対象も限定されている。さらに,請求者の居住する市町村内に住む者のみに情報開示請求が認められる点でも限定されている。そこで,制約の程度が非常に大きいとまではいえない。
したがって,緩やかな基準で違憲審査すべきと主張する。具体的には,目的が必要であり,目的と手段に関連性が認められれば合憲というべきである,と主張する。
(2)アしかし,私見はこのような緩やかな基準によるべきではないと考える。理由は以下の通りである。
まず,対象者からすれば,自らの過去の犯罪事実は,最も知られたくない個人情報の1つであり,制約される権利は重要といえる。
イまた,これが氏名・住所・顔写真と結びついて個人を特定される形で公開されれば,対象者がそこに住んでおり,そういう顔であることが周囲から広く知られてしまい,対象者は性犯罪者というレッテルを貼られ,その場所で生きていくのが著しく困難となるおそれがある。
さらに,本件で問題となる情報の開示時点では,対象者は既に刑に服した後と考えられる。その段階でさらに情報を開示されることは,先に述べた不利益を考えれば,刑罰そのものよりも重大な人権制約となりうる。すなわち,制約の程度も非常に高い。
ウ他方で,国が主張するように,性犯罪の情報という性質上,公開の必要性が高いこと,及び,開示請求権者や対象者・地方を限定しており,制約は限定的といえる。そこで,厳格な審査基準まで用いる必要はなく,中間審査基準を用いるべきである。具体的には,目的の重要性,及び,目的と手段との実質的関連性が認められる場合にのみ,本件法律は合憲となるといえる。
第3目的
本件法律の目的は,13歳未満の子供を性犯罪被害から守ることにあると考えられる。このような目的は重要といえる。
第4手段
(1)違憲主張の根拠としては,以下が考えられる。
まず,13歳未満の子供を性犯罪被害から守ることは,13歳未満の子供に対し,知らない大人についていかないよう教育するとか,13歳未満の子供に対する性犯罪への罰則を強化する等の手段によっても達成できる。
次に,顔写真まで公開せずとも,氏名と住所が把握できれば,個人を特定することは十分可能である。したがって顔写真を公開することは行き過ぎである。
さらに,本件では,過去に常習的に性犯罪を犯して有罪判決が確定した者については,特に制限なく請求者に開示しなければならないとしている。
これでは,犯罪後何十年も経ち,更生して真面目に生きている前科者についても情報の公開がなされることになる。しかし,このような前科者が再度性犯罪を行うことは考えにくく,このような場合も含めて無限定に情報を公開する必要はないといえる。
以上より,より制限的でない手段によることが可能であるから,目的と手段とが実質的な関連性を有するとはいえない。
(2)しかし,私見は,目的と手段の実質的関連性は認められると考える。
理由は以下の通りである。
アまず,13歳未満の子供は判断能力が低く,教育によっても,知らない大人を避けきることは難しい。また,性犯罪は心の殺人ともいわれるほどに,被害者の心身に重大な影響を及ぼすから,事後的対応では手遅れである。
イ次に,顔写真については,たしかに,氏名と住所だけでも対象者は特定できるが,街にいる知らない人間の氏名と住所を,外見から特定することは不可能である。顔写真があることで,子供や親権者が,性犯罪被害の防止のために適切に対応しうる。
そこで,顔写真を公開することは,性犯罪の被害を防止する手段として必要といえる。
ウさらに,犯罪後相当な期間が経過している者についてまで開示の対象とすることについても,性犯罪の再犯率は非常に高く,またどの性犯罪者が再犯に走らないかを判断することは困難である。そこで,対象者を常習者に限定する制度の下で,相当な期間が経過した者に対しても情報を公開するとしていることも,性犯罪被害防止のため必要といえる。
エ他方で,本件法律は,請求者を限定し,近隣住民全員が対象者の情報を知ることにはならないことや,公開の仕方もインターネットなどで公開することと比べれば制限的であることから,制約の程度が過大であるともいえない。
第5以上より,本件法律は合憲である。
以上
問題
遺伝子は,細胞を作るためのタンパク質の設計図である。人間には約2万5000個の遺伝子があると推測されている。遺伝情報は,子孫に受け継がれ得る情報で,個人の遺伝的特質及び体質を示すものであるが,その基になる遺伝子に係る情報は,当該個人にとって極めて機微に係る情報である。遺伝子には,すべての人間に共通な生存に不可欠な部分と,個人にオリジナルの部分とがある。もし生存に不可欠な遺伝子が異常になると,細胞や体の働きが損なわれるので,その個体は病気になることもある。既に多数の遺伝子疾患が知られており,また,高血圧などの生活習慣病や癌,そして神経難病なども遺伝子の影響を受けることが解明されつつある。
遺伝子治療とは,生命活動の根幹である遺伝子を制御する治療法であり,正常な遺伝子を細胞に補ったり,遺伝子の欠陥を修復・修正することで病気を治療する手法である。遺伝子治療の実用化のためには,動物実験の次の段階として,人間を対象とした臨床研究も必要である。遺伝子治療においては,まず,当該疾患をもたらしている遺伝子の異常がどこで起こっているかなどについて調べる必要がある。遺伝子治療は,難病の治癒のための新たな可能性を有する治療法ではあるが,安全性という点でなお不十分な面があるし,未知の部分もある。例えば,治療用の正常な遺伝子の導入が適切に行われないと,癌抑制遺伝子等の有益な遺伝子を壊すことがある。さらに,遺伝子という生命の根幹にかかわる点で,遺伝子治療によって「生命の有り様」を人間が変えることにもなり得るなど,遺伝子治療それ自体をめぐって様々なレベルで議論されている。
【注:本問では,遺伝子治療に関する知見は以上の記述を前提とすること。】
2009年に,国立大学法人A大学医学部B教授らのグループによる遺伝子治療臨床研究において,被験者が一人死亡する事故が起きた。また,遺伝子に係る情報の漏洩事件も複数起きた。そこで,政府は,「遺伝子研究保護法」(【参考資料】)を制定しようとしている。
〔設問〕
必要に応じて対立する見解にも触れつつ,「遺伝子研究保護法」の憲法適合性について論じなさい。
(平成21年本試験憲法を改変したもの)
【参考資料】遺伝子研究保護法
第1条
目的
この法律は,遺伝子治療の臨床研究(以下「遺伝子治療臨床研究」という。)に関し遵守すべき事項を定め,もって遺伝子治療臨床研究の医療上の有用性及び倫理性を確保し,社会に開かれた形での適正な実施を図ることを目的とする。
第2条
定義
一この法律において「遺伝子治療」とは,疾病の治療を目的として遺伝子又は遺伝子を導入した細胞を人の体内に投与すること及び二に定める遺伝子標識をいう。
二この法律において「遺伝子標識」とは,疾病の治療法の開発を目的として標識となる遺伝子又は標識となる遺伝子を導入した細胞を人の体内に投与することをいう。
三この法律において「研究者」とは,遺伝子治療臨床研究を実施する者をいう。
四この法律において「総括責任者」とは,遺伝子治療臨床研究を実施する研究者に必要な指示を行うほか,遺伝子治療臨床研究を総括する立場にある研究者をいう。
五この法律において「遺伝子情報」とは、遺伝子に係る情報であって,匿名化されておらず個人を識別することができるものをいう。
六〜九(略)
第3条(略)
第4条
適切な説明に基づく被験者の同意の確保
遺伝子治療臨床研究は,適切な説明に基づく被験者の同意(インフォームド・コンセント)が確実に確保されて実施されなければならない。
第5条
被験者の同意
1総括責任者又は総括責任者の指示を受けた医師である研究者(以下「総括責任者等」という。)は,遺伝子治療臨床研究の実施に際し,次条に掲げる説明事項を被験者に説明し,文書により自由意思による同意を得なければならない。
2(略)
第6条
被験者に対する説明事項
総括責任者等は,前条の同意を得るに当たり、次のすべての事項を被験者に対し十分な理解が得られるよう可能な限り平易な用語を用いて説明しなければならない。
一遺伝子治療臨床研究の目的,意義及び方法
二遺伝子治療臨床研究を実施する機関名
三遺伝子治療臨床研究により予期される効果及び危険
四他の治療法の有無,内容並びに当該治療法により予期される効果及び危険
五被験者が遺伝子治療臨床研究の実施に同意しない場合であっても何ら不利益を受けることはないこと。
六被験者が遺伝子治療臨床研究の実施に同意した場合であっても随時これを撤回できること。
七個人情報保護に関し必要な事項
八その他被験者の人権の保護に関し必要な事項
第7条(略)
第8条
主務大臣は,被験者の死亡その他遺伝子治療臨床研究により重大な事態が生じたときは,総括責任者に対し,遺伝子治療臨床研究の中止又は変更その他必要な措置を命ずることができる。
(以下略)
第1制約及び憲法上の権利性について
1遺伝子研究保護法(以下,「法」という。)8条は,研究者の遺伝子治療臨床研究(以下,「遺伝子研究」という。)の自由を不当に制約し,違憲ではないか問題となる。
2法8条は、中止命令を認めているところ、これにより,研究者は遺伝子研究が一切できないという制約を受ける。遺伝子研究は,学問の自由の1つとして23条で保障される。
第2違憲審査基準
1権利の重要性・性質
(1)ア遺伝子研究は,難病の治癒のための新たな可能性を有する治療法であり,これまで治療が不可能であった多くの人命を救う可能性を秘めている。したがって重要な権利といえる。
イまた,遺伝子研究の成果により,人々の生活をより便利にし,人々の価値観や物事の考え方そのものを大きく変える可能性がある。かかる自由が制約された場合,考え方が変わる契機そのものが失われることから,民主政の過程では回復できないという性質を持つ。
(2)他方で,遺伝子研究は,未知の分野の開拓であり,その過程でいかなる事態が生じるか予測できない。
また,遺伝子は生命の根幹にかかわるものであり,多くの生命を救うどころか多数の犠牲を生む危険もあるものである。
さらに,生命のありようそのものを改変してしまうことにもなりうるなど,倫理的にもまだまだ問題が残るものである。
2制約の程度
(1)法8条は,中止命令まで認めている。中止により,遺伝子研究そのものが一切できないこととなる。したがって,制約の程度が大きいといえる。
(2)他方で,法8条は,最初から包括的に遺伝子研究を禁止するものではなく,実際に重大な事態が生じた場合に限り制約を課すものである。その意味では制約場面は限定されているといえる。
3以上のように,遺伝子研究の自由は,重要な権利ではあるが制約の必要性も認められる。また,一切研究ができなくなるという意味では制約の程度が高いが,制約される場面は「重大な事態」が生じた場合に限られるという意味では限定的な制約ともいえる。
このように様々な側面を有する権利であるから,その違憲性は中間的な審査基準で審査すべきである。具体的には,�〔榲�が重要であり,�⊆蠱覆�目的との間で実質的関連性を有する場合でなければ,法8条は違憲となると考える。
第3具体的検討
1目的
法8条の目的は,遺伝子研究の危険性に着目し,被験者の生命・身体を保護する点にあると考えられる。生命・身体は何物にも代えがたい価値を有しているから,これを保護する目的は重要といえる。
2手段
(1)アまず,法8条は,「重大な事態」が生じたとき,中止命令等の措置を命ずるとしている。「重大な事態」という文言はあいまいであり,生命・身体への侵害以外の事情もこれに含まれうるため,必要以上の制約となるのではないかが問題となる。
イしかし,法8条は,例示として被験者の死亡を挙げており,「重大な事態」とはこれに近い場合をさすといえるから,それほどあいまいな文言とまではいえない。
また,遺伝子研究は未知を対象とする学問であり,しかも臨床の場で生命を相手とするから,何が起こるか全く予測できない部分がある。
そうすると,あまりに具体的な事情を想定して,法の文言に盛り込むのは難しい。
ウしたがって,「重大な事態」という文言は,目的との関係で適合的といえる。
(2)ア次に,中止命令は被験者の生命保護のために認める趣旨と考えられる。しかし,中止命令により,治療法のない病気を患う被験者の最後の手段をも奪うこととなる。
そうすると,被験者の生命保護の観点から中止命令を認めるというのは背理ではないか。
イしかし,先に述べたように,8条が中止命令を出す要件としている「重大な事態」の際には,すでに被験者の生命が危機的な状況にあるといえる。
そうすると,治療が被験者に希望をもたらす状況は失われている。
このような状況で遺伝子研究を中止すらできないことは,生命の危機にある被験者に対する人体実験を許すことに等しい。
たしかに,遺伝子研究は未来の多くの生命を救う可能性を持つ。しかし,だからといって,現在の一人の生命をないがしろにしてよいことにはならない。
ウしたがって,「重大な事態」において中止命令を認めることは,目的適合的といえる。
(3)アさらに,法は遺伝子研究の際,治療方法(法6条1号)や,予期される効果・危険(同3号・4号)を十分に説明したうえで,自由意思により被験者の同意を得ることとしている(法5条1項)。
そうすると,被験者は治療に伴うリスクを十分に把握したうえで,自己責任の下に危険を引き受けている。このような場合にまで,研究を包括的に中止できるとするのは,多くの生命を犠牲にして,(同意の下で受けたリスクという意味では)小さな危険を過剰に重視するものであり,得られる公益と失われる利益の間の均衡を欠くのではないか。
イしかし,遺伝子研究では,どのような危険が生じるかは,研究者にすら不明確である。十分な理解が得られるように説明する(法6条)といっても,想定外の危険が発生することが十分に考えられる。そのような危険についてまで被験者が真に理解しているとは考えにくい。
しかも,被験者は難病を抱えている場合が多く,ある程度リスクを冒しても治療を優先させたがることが多いと考えられる。そのような被験者の同意を過剰に重視すべきではない。
ウしたがって,同意があるからといって得られる公益と失われる利益の均衡を欠くものではないと考える。
3以上より,目的と手段との間に,実質的な合理的関連性があるといえる。
第4結論以上より,法8条は合憲である。以上
問題
市町村長は,個人を単位とする住民票を世帯ごとに編成して,住民基本台帳を作成しなければ
ならない。生活の本拠である住所(民法第22条参照)の有無によって,権利や利益の享受に影
響が生じる。国民健康保険や介護保険等の手続をするためには,住民登録が必要である。ただ
し,生活保護法は,「住所」という語を用いておらず,「居住地」あるいは「現在地」を基準とし
て保護するか否かを決定し,かつ,これを実施する者を定めている【参考資料1】。
ボランティア活動などの社会貢献活動を行う,営利を目的としない団体(NPO)である団体
Aは,ホームレスの人たちなどが最底辺の生活から抜け出すための支援活動を行っている。団体
Aは,支援活動の一環として,Y市内に2つのシェルター(総収容人数は100名)を所有して
いる。その2つのシェルターに居住する人たちは,それぞれのシェルターを住所として住民登録
を行い,生活保護受給申請や雇用保険手帳の取得,国民健康保険や介護保険等の手続をしてい
る。
Xは,Y市内にあるB社に正規社員として20年勤めていたが,B社が倒産し,突然職を失っ
た。そして,失職が大きな原因となり,X夫婦は離婚した。その後,Xは,C派遣会社に登録
し,紹介されたY市内にあるD社に派遣社員として勤め始め,Y市内にあるD社の寮に入居し
た。しかし,D社の経営状況が悪化したために,いわゆる「派遣切り」されたXは,寮からも退
去させられた。職も住む所も失ってしまったXは,団体Aに支援を求めた。そして,その団体A
のシェルターに入居し,そこを住所として住民登録を行った。不定期のアルバイトをしながら,
できる限り自立した生活をしたいと思っているXは,正規社員としての採用を目指して,正規社
員募集の情報を知ると応募していたが,すべて不採用であった。その後,厳しい経済不況の中
団体Aの支援を求める人も急増し,2つのシェルターに居住し,そこを住所として住民登録を行
う人数が200名を超えるに至った。シェルターが「飽和状態」となって息苦しさを感じたX
は,シェルターに帰らなくなり,正規社員への途も得られず,アルバイトで得たお金があるとき
はY市内のインターネット・カフェを泊まり歩き,所持金がなくなったときにはY市内のビルの
軒先で寝た。
201*年4月に,Y市は,住民の居住実態に関する調査を行った。調査の結果,団体Aのシ
ェルターを住所として住民登録している人のうち,Xを含む60名には当該シェルターでの居住
実態がないと判断した。Y市長は,それらの住民登録を抹消した。住民登録が抹消されたことを
知ったXは,それによって生活上どのようなことになるのかを質問しに,市役所に行ったとこ
ろ,国民健康保険被保険者証も失効するなどの説明を受けた。Xは,胃弱という持病があるし,
最近体調も思わしくなかったが,医療費が全額自己負担になるので,病院に行くに行けなくなっ
た。
住民登録を抹消され,貧困ばかりでなく,生命や健康さえも脅かされる状況に追い詰められた
Xは,生活保護制度に医療扶助もあることを知り,申請日前日に宿泊していたインタ−ネット・
カフェを「居住地」として,Y市長から委任(生活保護法第19条第4項参照)を受けている福
祉事務所長に生活保護の認定申請を行った。
Y市は,財政上の問題(生活保護のための財源は,国が4分の3,都道府県や市,特別区が4
分の1を負担する。)もあるが,それ以上にホームレス【参考資料2】などが市に増えることで
市のイメージが悪くなることを嫌って,インターネット・カフェやビルの軒先を「居住地」ある
いは「現在地」とは認めない制度運用を行っている。そこで,Y市福祉事務所長は,Xの申請を
却下した。
〔設問〕
必要に応じて対立する見解にも触れつつ,本件における憲法上の問題点について論じなさ
い。
(平成22年本試験憲法を改変したもの)
【参考資料1】生活保護法(昭和25年5月4日法律第144号)(抄録)
(この法律の目的)
第1条
この法律は,日本国憲法第25条に規定する理念に基き,国が生活に困窮するすべての国民に
対し,その困窮の程度に応じ,必要な保護を行い,その最低限度の生活を保障するとともに,そ
の自立を助長することを目的とする。
(無差別平等)
第2条
すべて国民は,この法律の定める要件を満たす限り,この法律による保護(以下「保護」とい
う。)を,無差別平等に受けることができる。
(最低生活)
第3条
この法律により保障される最低限度の生活は,健康で文化的な生活水準を維持することができ
るものでなければならない。
(実施機関)
第19条
都道府県知事,市長及び社会福祉法(昭和26年法律第45号)に規定する福祉に関する事務
所(以下「福祉事務所」という。)を管理する町村長は,次に掲げる者に対して,この法律の定
めるところにより,保護を決定し,かつ,実施しなければならない。
一
その管理に属する福祉事務所の所管区域内に居住地を有する要保護者
二
居住地がないか,又は明らかでない要保護者であつて,その管理に属する福祉事務所の所管
区域内に現在地を有するもの
2
居住地が明らかである要保護者であつても,その者が急迫した状況にあるときは,その急迫
した事由が止むまでは,その者に対する保護は,前項の規定にかかわらず,その者の現在地を
所管する福祉事務所を管理する都道府県知事又は市町村長が行うものとする。
3
第30条第1項ただし書の規定により被保護者を救護施設,更生施設若しくはその他の適当
な施設に入所させ,若しくはこれらの施設に入所を委託し,若しくは私人の家庭に養護を委託
した場合又は第34条の2第2項の規定により被保護者に対する介護扶助(施設介護に限
る。)を介護老人福祉施設(介護保険法第8条第24項に規定する介護老人福祉施設をいう。
以下同じ。)に委託して行う場合においては,当該入所又は委託の継続中,その者に対して保
護を行うべき者は,その者に係る入所又は委託前の居住地又は現在地によつて定めるものとす
る。
4
前三項の規定により保護を行うべき者(以下「保護の実施機関」という。)は,保護の決定
及び実施に関する事務の全部又は一部を,その管理に属する行政庁に限り,委任することがで
きる。
第1
Y市福祉事務所長の却下処分(以下,「本件処分」という。)は,Xが生活保護を受ける権
利を侵害し,違憲・違法ではないか問題となる。
第2
制約及び憲法上の権利性
Xは,本件処分により,生活保護を受けられなくなっている。
Xが生活保護を受ける権利は,25条1項により抽象的権利として保障され,生活保護法
(以下,「法」という。)により具体化されている。
第3
制約が正当化されるか
1(1)
このように,生活保護法は,憲法25条を具体化したものであるから,その条項の解釈
は,憲法の趣旨に合致するように行うべきである。
(2)
憲法25条は,健康で文化的な最低限度の生活を行うための施策を国や地方公共団体に対
して求める趣旨と考えられる。
そして,それを受けた法は,1条で「すべての国民に対し」「困窮の程度に応じて」必要な
保護を行うことを目的としている。これは困窮の程度につき,個別具体的な事情を考慮して
保護を決定すべき趣旨といえる。
また,法19条は,「居住地」「現在地」という語を用いている。生活保護を受けようとする
者は,住所すら持てないほど生活に困窮していることも多い。この場合に,住所がないから
という理由で生活保護を受けられないことになるのは背理である。そこで,同条は,「住所」
という語を用いず,当該地方公共団体の区域内に生活していることが明らかであるような者
に対し,保護を与えるべきという趣旨といえる。特に,生存権を保障する25条の趣旨から
すれば,生命・身体が脅かされるような事態にある者については,現在している区域の地方
自治体による保護が絶対的に求められるといえる。
(3)
そうすると,法19条の「居住地」「現在地」の解釈にあたっては,当該公共団体の区域内
に生活しているか否かを,個別具体的な事情を考慮したうえで,実質的に判断すべきである。
2
反論について
(1)ア
これに対し,憲法25条及び,それを具体化する生活保護法の運用には,裁量が認めら
れるという反論が考えられる。
具体的には,法19条が,「居住地」「現在地」という用語を用いているのは,地域毎の差異
に応じた行政を実現する趣旨であり,特に生活保護のように財源が必要なものについては,
裁量は広く認められるべきであるとし,そのうえで,本件却下処分も,かかる裁量の範囲内
であるとして,合憲である,という反論が考えられる。
イ
本件では,まず,ホームレスが増えれば市のイメージが悪化する(� 法�そこで,ネットカ
フェやビルの軒先を「居住地」「現在地」と認めない運用をすることで,ホームレスが増える
ことを防ぐ必要がある。次に,Y市にはシェルターがあり,ここに入っていれば住民登録が
出来るし,生活保護が受けられる以上,ネットカフェやビルの軒先を「居住地」「現在地」と
認める必要性は低い(�◆法�
さらに,このような場所を「居住地」「現在地」とすると,個人の特定に困難が生じ,生活
保護の二重取り等の問題が生じるおそれもある(��)。
ウ
以上より,これらの場所を「居住地」「現在地」と認めない運用も,裁量の範囲内であり,
憲法25条及び法19条に反しない,と反論する。
(2)ア
しかし,かかる反論は妥当ではない。以下理由を述べる。
イ
まず,裁量の有無の問題について,たしかに,25条及び法に基づく生活保護の支給には,
財源の問題もあるため,一般的には,市に一定の裁量が認められる。
しかし,かかる財源は,国が4分の3までを負担している。これは,生活保護は生活困窮者を
対象とする制度であり,生活する地域によって保障に差が出ることを防ぐ必要があることか
ら,国が多くの財源を負担したものと考えられる。
したがって財源の問題があるからといって,広範な裁量を認めるべきではない。
(3)ア
次に,法2条は無差別平等を保障しており,特に生存権の根幹である生命・身体の維持
については,地域ごとの差異を許容していない。
イ
本件では,Xはホームレスであるうえ,胃弱という持病があり,通院の必要性がある。すな
わち,現に医療を受けられなければ,生命・身体の維持ができなくなるおそれがある。した
がって,本件では,地域毎の差異に基づく取り扱いは,許されない。
ウ
したがって,本件で市側の裁量は認められないというべきである。
(4)
次に,反論�´↓�について,仮に裁量を認めたとしても,本件処分が裁量の範囲内とはい
えない。
まず,�,砲弔い董せ圓離ぅ瓠璽犬量簑蠅蓮だ限幻△�保障を予定している個人の生命,特に
本件で現に問題となっているXの医療を受ける権利と比べれば,軽い。
次に,�△砲弔い董ぃ抻圓蓮ぅ轡Д襯拭爾貌�れば生活保護が受けられるとする。しかし,Y
市では,定員100名のシェルターに200名を超える人数が登録している。このうち60
名に居住実態がないとしても,定員の15倍もの人数がシェルターを利用していることにな
る。このような現状では,シェルターが健康で文化的な最低限度の生活を保障する施設とし
て機能しているとは到底いえない。
仮にホームレスが増えることがイメージの悪化につながるのを抑制したいのであれば,Y
市はNPO法人に任せずに,率先してシェルターを増やせば良い。
��について,生活保護の二重取りについては,たしかに社会問題ともなりうる重大な問題
である。しかし,これは個人の同一性が確認できれば対処できる問題であり,かかる同一性
を居住地や現在地によって確認する必要は必ずしもない。
また,二重取りを防ぐことは重大ではあるが,事後的な対応も不可能ではない。他方,二重
取りを防ごうとするあまり,本来生活保護を受けるべき人間が保護を受けられず,特に生命
や身体の保護ができない状況となった場合,最悪の場合餓死しかねず,事後的な対応は不可
能である。
3(1)
以上より,本件で市側に裁量は認められず,実質的にみてXの「居住地」又は「現在地」
がY市内にある場合には,Xには生活保護を受ける権利がある。
(2)ア
本件では,Xは,Y市にあるB社に正社員として20年も真面目に勤務しており,Y市
の経済にも貢献してきた。なお,Xが職を失ったのは,B社の倒産によるものであり,Xの
責任ではない。
また,Xは,失職による離婚という挫折を経験しながら,さらにY市内にあるD社で真面
目に働こうとしており,しかしD社の経営悪化による派遣切りに遭った。これも,Xの責任
ではない。
そのうえでやむなくシェルターに入ったところ,シェルターが上述のような劣悪な環境で
あったため,やむなくシェルターを出た。これもXの責任ではない。
このように,Xは長年にわたりY市に居住し,住居を失ってからも,Y市内のネットカフ
ェや駅の軒先で寝泊まりしていた。よって,生活保護の認定申請時,Xの「居住地」はY市
内にあったといえる。
イ
なお,Xは,このようにY市に長年貢献しつつ,やむを得ない事情で苦難にさらされ,ホー
ムレスとなりながらも,それを乗り越えるべく懸命に生活してきた。このようなXは,まさ
に自立の意思がありながらホームレスとなることを余儀なくされた者といえ,ホームレスの
自立の支援等に関する特別措置法1条からも,必要な施策を講ぜられるべき立場にある。そ
れにもかかわらず,「居住地」「現在地」の解釈を画一的に解し,Xのような者の個別事情を
考慮しないY市の判断には,何らの合理性もない。
ウ
さらに,Xは胃弱という持病を有しており,病院にかからなければ生命が脅かされるおそ
れがあるため,現在するY市による保護が絶対的に求められている。
4
以上より,本件却下処分は,Xが生活保護を受ける権利を侵害し、違憲である。以上
問題
多くの法科大学院は2004年4月に創設されたが,A大学(国立大学法人)は,2005年
4月に法科大学院を創設することとした。A大学法科大学院の特色は,女性を優遇する入学者選
抜制度の採用であった。A大学法科大学院が女性を優遇する入学者選抜制度を採用する主たる理
由は,法科大学院・新司法試験という新しい法曹養成制度の目的として多様性が挙げられている
が,法曹人口における女性の占める比率が低い(参考資料参照)ことである。A大学法学部で
は,入学生における女子学生の比率は年々増え続けており,2004年度には女子学生が約40
パーセントを占めていた。A大学法科大学院としては,法学部で学ぶ女子学生の増加という傾向
を踏まえて,法科大学院に進学する女性を多く受け入れることによって,結果として法曹におけ
る女性の増加へ結び付けることができれば,法科大学院を創設する社会的意義もある,と考え
た。
A大学法科大学院の入学者選抜制度によれば,入学定員200名のうち180名に関しては性
別にかかわらず成績順に合格者が決定されるが,残りの20名に関しては成績順位181位以下
の女性受験生のみを成績順に合格させることになっている(このことは,募集要項で公表してい
る。)。男性であるBは,2007年9月に実施されたA大学法科大学院2008年度入学試験を
受験したが,成績順位181位で不合格となった。なお,A大学法科大学院の2008年度入学
試験における受験生の男女比は,2対1であった。
〔設問〕
必要に応じて対立する見解にも触れつつ,本件における憲法上の問題点について論じなさい
。
平成23年予備試験憲法を改変したもの
第1
A大学の入学者選抜制度(以下,「本件制度」という。)は,法の下の平等(14
条)に反し違憲ではないかが問題となる。
第2
差異の存在及び違憲審査基準
1
A大学の入学者定員は200名であるところ,181番以降は,男性受験生の合
格を認めていない。これにより,合格につき性別に基づく差異が生じている。
かかる差異が正当化されるか,平等権侵害における違憲審査基準が問題となる。
2(1)ア
まず,本件制度は,性別に基づく区別をしており,「性別」は後段列挙事由に
あたる。
後段列挙事由に該当する場合,基本的には差異を設ける合理的理由があると考え
にくいことから,違憲性の推定が働き,原則として厳格な審査によって制約の合憲
性を判断すべきといえる。
イ
しかし,本件制度は法曹人口につき,男女間の実質的な差別が存在するところ,
それを是正するための措置である。この場合,差異を設けるべき理由が一応存在す
ることから,違憲性の推定は働かないと考える。
(1)
次に,本件制度は,A大学法科大学院への入学に関するものであるところ,法科
大学院はA大学以外にもあり,受験生には受験校の自由な選択が認められている。
しかも,A大学の募集要項にも,本件制度は明示されており,法科大学院への進
学を包括的に制約するものとはいえない。
さらに,大学には自治が認められ(23条),その一環として,どのような者を入
学させるかについても一定の裁量があることは認めざるを得ない。
以上からすれば,緩やかな審査基準により合憲性を判断すべきとも思える。
(2)
しかし,そのような裁量は,たとえばどのような能力を持つ者を入学させるか,
という点については広く認めることができるものの,性別のような,生まれながら
の個人の属性であり,自らの努力によって変えることのできないものを基準とする
場合にまで広く認めることはできないというべきである。
また,本件制度によれば,男性に限って,181番以降の場合は入学を一切認め
られないこととなり,不利益の程度は大きい。
(3)
以上より,本件制度の合憲性は,中間的な審査基準を用いて判断すべきである。
具体的には,目的が重要であり,手段と目的との間に実質的な関連性が認められれ
ば,合憲と考える。
第3
目的
1
本件制度の目的は,新しい法曹養成制度における多様性の確保のため,法科大学
院に進学する女性を多く受け入れることで,結果として法曹における女性の増加へ
結びつける点にある。
2
目的が重要とはいえないとする立場からは,以下のような主張が考えられる。
(1)
20年前の1985年と比べると,裁判官で4倍以上,検察官で6倍以上,弁護
士で3倍近くも上昇しており,女性の法曹界への進出が進んでいる状況にある。
(2)
また,A大学では,2004年には法学部の女子学生が40パーセントに達して
おり,2008年における受験生男女比も2対1と,女性が33パーセント存在し
ている。
これも,女性の法学部志向が年々高まってきており,女性の法曹界への進出をこ
れ以上促進するべき理由はない理由といえる。
したがって,本件制度の目的は,既に達成されつつあり,重要とまではいえない
と主張する。
3
これに対し,私見では,目的の重要性は認められると考える。
(1)
法曹人口における女性の割合は,2004年時点で,裁判官,検察官,弁護士とも
13%程度である。すなわち,女性法曹の割合は9人に1人程度でしかなく,まだ
まだ是正の必要性は高いといえる。
(2)
また,たしかに,A大学の法学部の女子学生は40%もいる。しかし,法学部にい
るからといって司法試験を受験する者はそれほど多くない。現に2008年でも,
受験生男女比では女性が約33%と,7%程度も低い。そうすると,法学部の女子
学生の割合は,法曹人口に占める女性の割合につき楽観的に考える基準として重視
すべきでない。
(3)
以上より,本件制度の目的は重要といえる。
第4
手段
1
手段が目的との実質的な関連性を欠くとする立場からは,以下のような主張が考
えられる。
(1)
本件制度では,181番以降の男性受験生を一切合格させないこととしている。
しかし,たとえば女性について試験の得点を加点する等の措置を採ることも考えら
れ,より制約の度合いを小さくする手段があるといえる。
(2)
また,A大学の入学定員が200名ということからすれば,181番以降の受験
生ということは,受験生全体の中でも得点が低い層である。
A大学法科大学院の受験生全体の3分の2が男性であることから,181番以降
の男性を全て排除すれば,40名程度の男性受験生が排斥されることとなり,得点
が240番程度の女性受験生が選ばれることになる。
これは,能力的にかなり劣る者を合格させることとなり,そういった者が司法試
験に合格して法曹となる可能性は低いから,このような措置を採っても法曹におけ
る女性の増加にはつながらない。よって,手段が目的に適合しない。
2
これに対し,私見は本件制度が目的と実質的な関連性を有していると考える。理
由は以下のとおりである。
まず,女性のみ点数を加算する扱いでは,受験生全体について女性を優遇するこ
とになり,このような制度の方が,本件制度より男性に不利となる可能性が高い。
すなわち,本件制度では,入学定員全体の9割にあたる180名については,女
性を優遇する措置は何らとられておらず,残り1割の部分につき女性を優遇するの
みである。こちらの方が制約の度合いは小さい。しかも本件制度は受験前に知らさ
れている。
次に,実力下位の者への優遇措置が法曹における女性の増加にはつながらないと
いう主張については,そもそも法科大学院入試段階での成績上位者が,必ずしも司
法試験合格者となるわけでもないため,手段の目的適合性についての反論とならな
い。
そもそも男性優位の社会構造の中で,女性が司法試験に挑戦するほどの学力を獲
得するのは,男性に比べて不利な部分が多い。そこで,法科大学院の入学試験の時
点で,最低合格ライン付近の結果を残した女性について,優遇措置を採ることは,
かかる社会構造を踏まえた合理的な方法といえる。
むしろ,男性優位の社会構造の中で,合格ライン近辺の結果を残した女性受験生
は,法科大学院入学後の学力の伸びを期待できるともいえる。
第5
以上より,本件制度は憲法14条に反せず,合憲である。以上