Aは,債権者からの差押えを免れるため,Bと通謀の上,売買を仮装して,その所有する建物及びその敷地(以下,これらを総称するときは「本件不動産」という。)の登記名義をBに移転するとともに,本件不動産を引き渡した。
その後,Aは,右の事情を知っているCとの間で,本件不動産につき売買契約を締結し,代金の支払いを受けたが,その直前に,Bが,Dに本件不動産を売却し,引き渡していた。
Dは,AB間の右事情を知らず,かつ,知らないことにつき過失がなかった。なお,本件不動産の登記名義は,未だBの下にある。
本件不動産をめぐるCD間の法律関係について論ぜよ。
(平成6年旧司法試験第2問目を改題)
1 Cは,Dに対し,所有権に基づき本件不動産を引き渡すように求めることが考えられる。では,Cは有効に所有権を取得しているといえるか。
まず,AB間の売買契約は,仮装譲渡にすぎず,無効である。(94条1項)
よって,Cは,本件不動産の所有者Aから有効に所有権を取得し,他方Dは,無権利者Bからの譲受人にすぎないから,本件土地の所有権を取得できないのが原則である。
そうすると,CのDに対する請求は認められるかに思える。
2 もっとも,Dは94条2項の「第三者」として保護されるのではないか。
(1)同条の「第三者」とは,虚偽表示に基づく法律関係を前提として新たに独立の利害関係を有するに至った者をいう。
Dは,AB間の仮装売買により作出された,B名義の登記という虚偽の外観に基づいて,Bとの間で本件不動産の売買契約を締結することで,新たに独立の利害関係を有するに至ったといえる。
よって,「第三者」といえる。
(2)また,Dは善意無過失であり,仮に同条により保護されるために無過失が必要だとしても保護される。
(3)さらに,第三者として保護されるためには,登記が必要か否かも問題となる。
この点については,94条2項により,虚偽表示による法律関係につき,第三者との関係で無効主張が出来ないのであれば,本人と第三者とは前主後主の関係に立つから,対抗関係とならない。
また,虚偽表示をした本人の帰責性は大きいため,権利保護要件としての登記も不要と考える。
したがって,登記は不要である。
(4)以上より,Dは,「第三者」として保護される。
3(1)以上より,Cは権利者Aから,本件不動産を有効に譲り受けており,他方でDも,94条2項の第三者として保護される。
そこで,CDのいずれが優先するのかが問題となる。
(2)思うに,94条2項により第三者が保護される場合,虚偽表示が有効なものとなるわけではなく,虚偽表示であることを第三者に対抗できなくなるにすぎない。
すなわち,同条の規定により,第三者は仮装譲渡人から,権利を承継取得するものと考える。
そうすると,両者は互いに,権利者Aから有効に権利を譲り受けた者とみることができる。すなわち,CとDとの関係は,二重譲渡類似の関係にある。
そこで,本件不動産につきCDのいずれが優先するかは,登記の先後により決すべきである(177条)。
(3)本件では,不動産の登記名義は未だBの下にある。
(4)よって,先に本件不動産の登記名義を得た者が優先すると考える。
4 以上より,Cは,登記を備えない限り,Dに対して所有権に基づき本件不動産を引き渡すことを請求できない。 以 上
Aは,工作機械(以下「本件機械」という。)をBに代金3000万円で売却して,引き渡した。この契約において,代金は後日支払われることとされていた。本件機械の引渡しを受けたBは,Cに対して,本件機械を期間1年,賃料月額100万円で賃貸し,引き渡した。
しかし,その後,Bが代金を支払わないので,Aは,債務不履行を理由にBとの契約を解除した。この場合における,AC間の法律関係について論ぜよ。
(平成20年旧司法試験第1問目を改題)
Aは,Cに対して,所有権に基づいて本件機械の引き渡しを求めることが考えられる。
AB間の本件機械の売買契約(民法555条)は, B が代金を支払わなかったため,債務不履行により解除(541条)されている。
そこで,本件機械の所有権はAにあり,AはCに対して所有権に基づく引き渡し請求ができるのが原則である。
2(1)
しかし,Cは,545条1項但書の「第三者」として保護されないか。
(2)ア
解除(545条1項)により,契約は遡及的に無効となると考えられる。同条但書は,この遡及効から第三者を保護するための規定と解される。
そこで,「第三者」とは,解除の対象となる契約に基づく法律関係について,新たに独立の利害関係を有するに至った者をいうと解する。
イ
なお,第三者は悪意でも保護されると解する。債務不履行状態について悪意であっても,契約が解除されないことを期待するのが通常であるし,かかる期待は保護すべきといえるからである。
ウ
もっとも,第三者は,債務を履行してもらえなかった何らの帰責性もな い本人を犠牲にして保護されるのであるから,ある程度強力な地位を備える必要がある。そこで,対抗要件を備える必要があると解する。
3
本件では,CはAB間の売買契約を前提として,Bから本件機械を賃借している。また,悪意でも保護される。
しかし,動産賃借権には対抗要件がなく,Cは対抗要件を備えることができないため,「第三者」として保護されない。
4
以上より,Aは,Cに対して所有権に基づいて本件機械の引き渡しを求めることができる。
以 上
Aは,夫であるBの事業が不振で家計にも窮するようになったため,Bに無断で,Bから預っていたBの実印等を利用し,Bの代理人としてB所有の土地をCに売り渡した。
1(一) Cは,Bに対し,その土地の所有権移転登記手続をするよう請求することができるか。
(二)Cは,Aに対し,どのような請求をすることができるか。Cの請求に対するAの反論についても含めて説明せよ。
2 Cが請求をしないでいる間にBが死亡した。A・B間には子Dがいたが,Dは相続を放棄した。この場合に,Cは,Aに対し,どのような請求をすることができるか。Dが相続を放棄しなかった場合には,どうか。
(旧司法試験平成2年第1問)
第1 設問1(一)について
1 Cの請求が認められるには,BC間の売買契約(本件売買契約)が有効である必要がある。
しかし,本件売買契約は,AがBの代理人として,Bに無断でCと締結した。そこで,有効な任意代理行為があったとはいえない。
2 日常家事債務
ABは夫婦である。そこで本件売買契約は日常家事債務(761条)といえ,本件売買契約は有効とならないか。
同条は,夫婦共同生活を営む上で必要な日常の家事については,夫婦相互の代理権があるため,この代理権により日常の家事について夫婦の一方が行った法律行為の効果は他方に帰属し,夫婦が連帯債務を負うことを規定したものと考えられる。
しかし,不動産の売買は,夫婦共同生活を営む上で必要とは考えにくい。
したがって,同条によって本件売買契約は有効とならない。
3 表見代理
(1)それでは,表見代理(110条)の規定によりCを保護できないか。
(2)ここで,761条の代理権は法定代理権であり,基本代理権たりえないとも思える。
しかし,法定代理権でも,これを信頼した相手方を保護する必要性は変わらないため,基本代理権たりうる。
もっとも,夫婦別産制(762条)を保護する観点から,相手方が,当該法律行為につき日常家事の範囲内にあると信じたことにつき,正当な理由がある場合,110条の趣旨を類推適用できると考える。
(3)本件では,土地の売買契約が行われている。土地は非常に高額であり,その売買が日常家事の範囲内にあると信じたことについて,Cに正当な理由があるとはとうていいえない。
したがって,Cは保護されない。
3 以上より,Cの請求は認められない。
第2 設問1(二)について
1 Cは,Aに対し,無権代理人の責任(117条1項)に基づき,損害賠償を請求することが考えられる。
2 これに対し,Aは,上述110条の趣旨の類推によりCが保護されるため,責任を負わないと反論することが考えられる。
しかし,表見代理は無権代理人の責任を免れるための制度ではないから,相手方は110条の趣旨の類推いかんにかかわらず,無権代理人の責任を追及することができる。
したがって,Aの反論は認められない。
3 では,Aは,CがAに代理権がないことを知らなかったことについて,「過失」(117条2項2号)があるとして,責任を負わないと反論できるか。
同条の過失は,その文言からも,1項が無過失責任という重い責任を課すものであることからも,重過失に限定されないと解する。
本件では,たしかにAは実印を持ち出して契約を締結している。
実印の社会的信用性からは,Cがこれを信用したことに過失はないとも思える。
もっとも,ABは夫婦であり,Aは容易に実印を持ち出せたと思われる。また,本件は不動産売買という高額取引である。そこで,CがBに対して何らか確認行為などをしていなければ,Cには過失があるといえる。
4 以上より,Cに過失がなければ,Aに対し,117条1項に基づき損害賠償を請求できる。
第3 設問2前段について
1 Bの死亡により,AとDがBを共同相続する(882条,896条,887条,890条,898条)。しかし,相続放棄により,Dは初めから相続人にならなかったこととなる(939条)から,結局Aが本人Bを単独で相続することになる。
2 そこで,CはAに対し,無権代理人の資格と本人の資格が融合したため,当然に代理行為が有効になったとして,登記移転手続をするよう請求することが考えられる。
しかし,相続という偶然の事情で相手方を利するべきではない。
そこで,無権代理人の資格と本人の資格は併存すると解する。
3 ただし,Aは自ら無権代理行為をしたのであるから,信義則(1条2項)上追認を拒絶することができないというべきである。
4 以上より,CはAに対し,登記移転手続をするよう請求することができる。
第4 設問2後段について
1 Dが相続放棄をしなかった場合,本人Bの資格を,DとAが共同相続することになる。
そこで,Cとしては,少なくともAの相続分につき,信義則上追認を拒絶できないとして,所有権移転登記手続をするよう求めることが考えられる。
しかし,このように考えると,法律関係が複雑になってしまい妥当でない。また,追認権は,共同相続人に不可分に帰属すると考えられる。
そこで,Dが追認しない限り,Aの相続分についても,所有権移転登記手続を求めることはできないというべきである。
なお,Dが追認した場合には,「第3」で検討したように,Aは信義則上追認を拒絶することができず,CはAに対し,登記移転手続を請求できると考える。
2 Dが追認しなかった場合,Aに対して,設問1で述べたように無権代理人の責任に基づき損害賠償を請求することが考えられる。
なお,この際,履行は選択できないと解する。履行責任を認めると,追認を認めたのと同じ結論になってしまうからである。
以 上
問題
Aは、その所有する甲土地にBのために抵当権を設定して、その旨の登記をした後、Cに対し、甲土地を建物所有目的で期間を30 年と定めて賃貸した。Cは、甲土地上に乙建物を建築し、乙建物にDのために抵当権を設定して、その旨の登記をした。その後、Cは、甲土地上の庭先に自家用車のカーポート(屋根とその支柱だけからなり、コンクリートで土地に固定された駐車設備)を設置した。
右の事案について、次の問いに答えよ(なお、各問は、独立した問いである)。
一 Bの抵当権が実行され、Eが競落した場合、乙建物及びカーポートをめぐるEC間の法律関係について論ぜよ。
二 Dの抵当権が実行され、Fが競落した場合、乙建物及びカーポートをめぐるFA間の法律関係について論ぜよ。
(旧司法試験民法平成9年第1問)
第1 設問一について
1 乙建物をめぐる法律関係
(1)Eは,Cに対し,甲土地の所有権に基づき,乙建物を収去し,土地を明け渡すよう請求することが考えられる。
(2)これに対し,Cは,Bが甲土地に抵当権を設定するより前に,甲土地を賃借し,乙建物の登記をしていれば,CはEに対し,甲土地の賃借権を対抗できる(民法605条,借地借家法10条1項)。
(3)しかし,本件では,Bの抵当権設定の方が先であるため,Cは競落人Eに対し,賃借権を対抗できない。
(4)したがって,Eの請求は認められる。
2 カーポートをめぐる法律関係
(1)Eは,Cに対し,カーポートの収去も求めることができるか。
Cとしては,カーポートは,甲土地に付合(242条)しており,所有権はCにあるため,Eの請求は認められないと反論することが考えられる。
(2)付合した物につき,不動産と一体とみるのは,物理的にみて分離が不可能な場合や,形式的には可能であっても物が著しく損傷したり,過分の費用を要する場合には,一体とみることが社会経済上の利益となるからである。またそのように考えることは当事者意思にも合致する。
そうすると,物理的に見て分離が容易だったり,一体とみることが当事者意思に合致しない場合,付合を認めるべきではない。
(3)本件では,カーポートは支柱がコンクリートで土地に固定されてはいるが,支柱部分を土地から取り外すことはそれほど困難とは思われない。また,カーポートは乙建物で生活する際に,自動車を利用するために用いられるものと考えられる。そうすると,土地と一体とみるよりは,乙建物の従物(87条)とみることが当事者意思にも合致する。
(4)以上より,カーポートは甲土地に付合したとはいえず,Eの請求は認められると考える。
第2 設問二について
1 乙建物をめぐる法律関係
(1)ア Fは,Cに対し,乙建物の所有権に基づき,乙建物の明渡しを請求することができる。
しかし,甲土地の賃借権を取得しているといえるか。抵当権の効力が土地賃借権にも及ぶかが問題となる。
イ まず,賃借権は物ではないが,主物の継続的な経済的効用を増す点で従物(87条)と異ならない。そこで,借地上の建物に設定された抵当権の効力は,特段の事情のない限り,土地の賃借権にも及ぶと考える(87条2項類推適用)。
ウ よって,Fは抵当権の効力により,Cから賃借権を承継取得したといえる。
(2)ア もっとも,賃借権を譲渡するには,賃貸人であるAの承諾が必要である(612条1項)。
イ 本件で,Aが賃借権の譲渡を承諾しない場合,Fは,裁判所に対し,Aの承諾に代わる許可を求めることが考えられる(借地借家法20条1項)。
(3)ア 仮に,本件で,FがAに対して賃借権の譲渡の承諾を求めなかった場合,賃借権が無断譲渡されたことになる。そこで,Aは解除(612条2項)が主張できるか問題となる。
イ この点については,当該譲渡が信頼関係を破壊したとはいえない特段の事情がある場合,解除権は行使できないと考える。
ウ しかし,競落により賃借権が譲渡されるにもかかわらず,FがAに承諾を求めずにいて,Aとの信頼関係が破壊したとはいえない特段の事情があった,とはいうことは考えられない。
エ したがって,この場合,Aは賃貸借契約の解除ができると考える。
(4)以上より,FはAに賃借権の譲渡につき承認を求めてこれが得られるか,あるいは裁判所が承諾に代わる許可をした場合,甲土地の賃借権をAに主張することができる。逆にこれらがなければ,Aは612条2項に基づいて甲土地の賃貸借契約を解除し,Fに対して建物収去土地明渡を請求できると考える。
2 カーポートをめぐる法律関係
カーポートの設置は,Dの抵当権設定登記より後であり,抵当権の効力がカーポートに及んでいないのではないか。そうであれば,Aは乙建物の収去はFに求められないとしても,カーポートの収去を求めることは可能とも思われるため問題となる。
この点については,従物は主物の処分に従うところ(87条2項), 抵当権の実行については,実行により目的物の権利が競落人に移転することから,「処分」とは抵当権の設定ではなく実行をさすと解する。
そうすると,カーポートは抵当権の実行前に建てられたものであり,抵当権の効力はカーポートにも及んでいるといえる。以上より,Aはカーポートについても収去を求めることはできない。
以 上
問題
Aは、工作機械メーカーのBとの間で、平成10 年1 月10 日、「Bは、Aに対し、同年5 月31 日までに、Aの工場専用の工作機械を製作してAの工場に設置して引き渡す」「代金(設置費用の実費200 万円を含む。)は800 万円とし、Aは、Bに対し、契約締結日に内金300 万円の支払をし、工作機械の引渡の日の翌月末日に残代金500 万円の支払をする」との約定で契約を締結し、代金の内金300 万円の支払をした。なお、工作機械を設置するには、Aが工場を事前に改造する必要がある。
Bは、同年4 月30 日に工作機械を完成したため、その旨を直ちにAに連絡して工場の改造を求め、その後も度々改造を求めたけれども、Aが一向に工場の改造に取り掛からないため、工作機械を設置することができないまま、同年5 月31 日が経過した。なお、Bは、金融業者から工作機械の製作費用として300 万円を借り、同年5 月31 日までの利息として20 万円の支払をした。
Bは、Aに対し、契約解除する旨の意思表示をし、損害賠償として代金相当額800 万円及び金融業者に対する利息金相当額20 万円の合計820 万円の支払を請求した。これに対し、Aは、その解除及び損害賠償額を争っている。 まず、Bの契約解除が認められるかどうかについて論じた上で、仮に契約解除が認められるとした場合のAB間の法律関係について論ぜよ。
(旧司法試験民法平成11年第1問)
第1 Bの契約解除が認められるか
1 まず,Bは,Aに対し,機械の代金不払いを理由とする解除(541条)を求めることはできない。
なぜなら,本件契約上,代金の支払いは工作機械の引渡の日の翌月末日となっているところ,工作機械は未だ引き渡されていないからである。
2 受領遅滞
(1)Bは,Aが工作機械を受け取っていないことという受領遅滞(413条)を理由として解除できないか。
債権はあくまで権利であり,義務ではない。そうすると,受領遅滞の効果は,先行する弁済提供に基づく効果の他,供託による免責を受けられる(494条)等にとどまり,債務者からの解除を認めるものではないと考える。
したがって,413条に基づく解除はできないと考える。
(2)信義則上解除が認められるか
ア しかし,契約内容に照らし,�〆銚⊆圓�債務者による弁済を受領することが当然の前提とされており,�△海譴鮗�領しないことで債務者に著しい損害が生じるような場合であり,かつ�J杠兌�領に対する債権者の態度が信義にもとると認められる場合,契約に伴う信義則(1条2項)上の付随義務としての受領義務を肯定し,これが認められない場合には債務不履行に基づく解除が認められるというべきである。
イ 本件では,工作機械はAの工場専用の物であり,Aによる受領が予定されていた。しかも,工作機械を設置するには,Aが事前に工場を改造する必要があることは契約時から分かっていた事情であり,それを前提に契約が締結されていると思われる(�� )。
また,Bは工作機械の製作費用としての借り入れをしており,支払が遅れればBの損害は膨らむ一方である。また,工作機械はA専用でありことから,転売も効かず,Aによる受領がされなければBはいつまでも資金調達できず,Bに著しい損害が生じる(�� )。
さらに,Bは機械を契約の予定期間内に製作した上で,再三受領のための工場の改造を求めており,契約の履行のために誠実な態度をとり続けている。これに対し,Aは一向に工場の改造に取り掛かっておらず,改造しない合理的理由も見当たらないから,Aの態度は信義にもとるといえる(�� )。
以上より,債務不履行に基づく解除を認めるべきである。
第2 契約解除が認められた場合のAB間の法律関係
1 Bの主張
(1)第1で述べたように,BがAに債務不履行責任を追及できると考えた場合,Bは,Aに対し,債務不履行に基づく損害賠償を請求することができる(415条)。
その範囲は,通常生ずべき損害及び,予見すべきであったといえる特別損害である(416条)。
(2)通常損害
工作機械が引き渡されていれば支払われていたであろう代金800万円全てを通常損害と認めることができるか。
この点,800万円には設置費用の実費200万円が含まれるところ,実際には設置が行われていないため,この200万円は損害とはならない。
なお,Aは,内金300万円は代金の一部として既に支払済であることを抗弁として主張することが考えられる。
(3)特別損害
Bは,機械の製作費用として借り受けた300万円の利息として20万円を支払っている。これは特別損害とならないか。
たしかに,Bの利息は,機械を製作するための費用として借り入れた金銭に対するものである。そして,本件契約がなければ,機械を製作する必要はなかったし,利息を支払う必要もなかった。ただし,機械製作のための資金は,本来製作者が調達すべきものであることから(485条参照), その利息である20万円も通常生ずべき損害とはいえない。
そこで,利息20万円は特別損害とみて,Aが予見すべきといえる場合には,請求できるとも思える。
しかし,この利息は,5月31日までの利息であるところ,これは本来のAに対する引き渡し期日である。そうすると,この利息は,契約が履行されていてもBが金融業者に支払うべき金銭であり,そもそもAの受領が遅れたため生じた損害とは評価できない。
したがって,Aが予見すべきか否かにかかわらず,BはAに対し利息の支払いを求めることはできないと考える。
(4)以上より,BはAに対し,600万円を請求できる。
2 Aの主張
(1)内金の返還請求
Aは,Bに対し,内金として支払った300万円を返還するよう求めることが考えられる。
Bが契約を解除した場合,解除に伴う原状回復(545条1項)として,Aのかかる請求は認められると考える。
なお,前述のように,AはBに対して弁済済の抗弁として300万円を支払ったことを主張することも考えられる。他方で,Bの損害賠償請求とは別に,300万円の返還を求めたり,Bに対する損害賠償債務と,内金返還請求権とで相殺を主張することもできる(505条)。
(2)工作機械の引き渡し
AがBに対し,損害賠償を行った場合,工作機械の所有権を取得し,Bに対し工作機械の引き渡しを請求できる(422条)。
以 上
問題
Aは,平成18年4月1日に,Aが所有する建物(以下「本件建物」という。)をBに「賃貸期間平成18年4月1日から平成21年3月末日までの3年間,賃料月額100万円,敷金500万円」の約定で賃貸し,Bは,敷金500万円をAに支払い,本件建物の引渡しを受けた。
Bは,平成19年4月1日に,Aの承諾を得て,本件建物をCに「賃貸期間平成19年4月1日から平成21年3月末日までの2年間,賃料月額120万円,敷金600万円」の約定で転貸し,Cは,敷金600万円をBに支払い,本件建物の引渡しを受けた。
その後,平成19年7月1日に,AとBは,両者間の本件建物に関する建物賃貸借契約を合意解約すること,及び合意解約に伴ってAがBの地位を承継し,Cに対する敷金の返還はAにおいて行うとともに,平成19年8月分以降の賃料はAがCから収受することを合意した。
そして,Bは,Aに預託した敷金500万円の返還を受けて,Cから預託を受けた敷金600万円をAに交付するとともに,Cに対して,AB間の上記合意により平成19年8月分以降平成21年3月分までのCに対する賃料債権全額をAに譲渡した旨を通知した。
以上の事案において,CがAB間の建物賃貸借契約の合意解約に同意しない場合,Cに対する賃貸人がAとBのいずれであるかについてどのような法律構成が考えられるか,また,Cに対して敷金返還債務を負担する者がだれかについてどのような法律構成が考えられるかに言及しつつ,BC間及びAC間の法律構成を論ぜよ。
(旧司法試験民法平成19年第2問)
1 Cに対する賃貸人は誰か
(1)本件では,AB間の賃貸借契約が合意により解除されている。
しかし,賃貸人の承諾を受けた転貸借契約が存在する場合,賃貸借契約を合意解除しても,第三者である転借人には対抗できない(613条3項)。そうすると,AB間の合意解除の効力を,転借人Cに対しては主張できない。
以上を前提とした場合,Cに対する賃貸人がAとBいずれであるかについて,考えられる法律構成は,以下のとおりである。
(2)ア 第1に,AB間の賃貸借契約の合意解除により,賃借人Bが賃貸借契約から離脱する結果,賃貸人Aと転借人Cとの間で直接の賃貸借契約に移行するという構成が考えられる(構成�� )。
この場合,Cに対する賃貸人はAとなる。
イ この構成では,転貸人Bの地位につき,転借人Cの合意なく,AB間の合意のみで当然に移転することとなる。しかし,転貸人の地位の移転は,転貸人の債務につき免責的債務引受の性質を有するため,転借人の合意が必要ではないか。転貸人の地位の移転の効果を,転借人Cの合意なく当然に主張できるか問題となる。
この点については,転貸借契約において,転貸人の債務は転貸目的物につき使用収益させるという単純なものであり,債務者の個性は問題とならない。 そこで,当然の移転を認めても転借人にとって特段の不利益とはならないといえる。
したがって,転貸人の地位は当然に移転すると考える。
ウ 以上より,この構成によれば,Cに対する賃貸人はAとなる。
(3)ア 第2に,賃貸借契約の効果は,AB間では合意解除により消滅するが,かかる解除の効力をCに対して主張できない結果,BC間では転貸借関係はそのまま維持されるという構成が考えられる(構成�� )。
イ この構成では,転貸借関係が存続する以上,Cに対する賃貸人(転貸人)はBとなる。
もっとも,AB間の賃貸借契約は解除されているため,BはAとの関係では,義務なくAのために賃貸目的物を維持管理する事務管理(697条)が成立すると考えられる。
2 敷金返還債務についての法律構成
(1)本件では,合意解約に伴って,地位の承継や敷金関係等に関する合意もなされている。これらについても,基本的には合意解約の効力と同様,原則としてCに主張することはできないと考えられる。
もっとも,構成�,鮑里襪�,構成�△鮑里襪�により,敷金関係がどうなるかの帰結が異なることとなると考えられる。
(2)ア 構成��
構成�,�らすると,Cとの関係で敷金返還債務を負担するのも,賃貸人であるAとなりそうである。
しかし,敷金返還債務については,債務者の資力に影響されるため,上述とは異なり債務者の個性が問題となる。そうすると,Cの同意なくして敷金返還債務が当然に移転すると考えるのは妥当でない。そこで,敷金返還債務については,AB間で併存的債務引受が行われたと考えるべきと考える。
イ 構成��
構成�△�らすると,Cとの関係で敷金返還債務を負担するのは,賃貸人であるBとなる。
3 BC間の法律関係
(1)構成��
AB間の賃貸借契約の合意解除により,Bは契約関係から離脱するから,Bはもはや賃料をCに請求することはできない。
ただし,敷金については,上述のように併存的債務引受と捉える以上,Aと連帯して返還債務を負う。
(2)構成��
AB間の合意解除後も,Bは未だ転貸人としての地位を有するため,賃料月額120万円をCに対して請求できる。ただし,取り立てた賃料はAに交付しなければならない(701条,646条)。
また,敷金返還債務もBのみが負担するため,転貸借契約が終了した時点で,転貸賃料の未払金を敷金に充当し,さらに残った敷金をCに返還した場合,Aに求償できる(702条1項)。
4 AC間の法律関係
(1)構成��
Aは,Cに対し,契約当事者として直接賃料の支払いを求めることができる。この場合,AはBC間の契約を引き継ぐことになるため,請求できる金額も月額120万円となると考える。
なお,AがCに賃料を請求するには,賃料債権の譲渡は債権譲渡と考えられることから,対抗要件の具備が必要と考える。
また,Bと連帯して,敷金返還債務を負う。
(2)構成��
Aは,Cに対して,直接賃料の支払いを求めることができる(613条2項)。もっとも,この際支払いを求めることができるのは,Bに対する月額賃料である100万円の範囲に限られる。
なお,前述のとおり敷金返還義務は負わない。
5 いずれの構成が妥当か
構成�△任蓮ぃ腺卒屬嚢膂娉鮟�がなされたにもかかわらず,BC間の法律関係が残ってしまい,煩雑である。
また,Bに事務管理を認めることで,Bには事務処理の負担のみが残り,何らの利益も享受できないこととなり,Bに酷といえる。
他方,構成�,任蓮ぃ造�離脱することで,Bに上述のような不利益を負わせることもなく,法律関係も簡明になる。また,AB間の合意解除について何らの関与もできないCの保護も十分可能である。
法605条の2が,対抗力ある不動産の賃貸人たる地位の移転について構成�,剖瓩す佑┐鮑里襪里發修里茲Δ瞥�由に基づくと考えられる。したがって,構成�,�妥当と考える。
以 上
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問題 貸主Fは,借主Aとの間で,自己の所有する地下1階,地上4階,各階の床面積が80 平方メートルの事務所・店舗用の中古建物(以下,「甲建物」という。)の賃貸借契約を締 結した。 Fは,Aに対して甲建物を引き渡し,Aは,事業用店舗として甲建物を占有して使用し ていた。Aは,甲建物のエレベーターを新しくする必要があると考え,エレベーター設置 の専門業者であるDに,エレベーター設備の更新工事を請け負わせる契約を締結し,D は,エレベーター設備の更新工事を完成した。 その後,平成22年10月3日に,FとAは,この賃貸借契約を解除する旨の合意をし た。Fは,Aに代わる借り手の募集を開始した。Hは,満70歳であり,衣料品販売業を 営んでいる。Hは,事業拡張に伴う営業所新設のための建物を探していたが,甲建物をそ の有力な候補とし,Fに対し,甲建物の内覧を申し出た。Hは,同月12日,Fを通じて Aの同意をも得た上で,甲建物の内部を見て歩き,エレベーターに乗ったところ,このエ レベーターが下降中に突然大きく揺れたため,Hは,転倒して右足を骨折し,3か月の入 院加療が必要となった。このエレベーターの不具合は,設置工事を行ったDが,設置工程 において必要とされていた数か所のボルトを十分に締めていなかったことに起因するもの であった。 Hは,この事故に遭う1年ほど前から,時々,歩いていてバランスを崩したり,つまず いたりするなどの身体機能の低下があり,平成22年4月に総合病院で検査を受けてい た。その検査の結果は,Hの身体機能の低下は加齢によるものであって,無理をしなけれ ば日常生活を送る上での支障はないが,定期的に病院で検査を受けるよう勧める,という ものであった。Hは,この勧めに従って,上記総合病院で,平成22年5月から毎月1回 の検査を受けていたが,特段の疾患はないと診断されていた。一方,この間,Hの妻が病 気で入院したため,Hは,毎日のように病院と自宅とを往復し,時として徹夜で妻に付き 添っていた。そのため,Hは,同年7月下旬頃から,かなりの疲労の蓄積を感じていた。 Hが同年10月12日に甲建物のエレベーターの揺れによって転倒し,右足を骨折するほ どの重傷を負ったのは,Hのここ1年ほどの身体機能の低下と妻の看病による疲労の蓄積 も原因となっていた。 なお,Hがエレベーターで重傷を負った同年10月12日の時点で,Aは未だ甲建物を 占有していた。 1 Hは,エレベーター内での転倒により被った損害の賠償を請求しようと考えた。Hが 損害賠償を請求する相手方として検討すべき者を挙げ,そのそれぞれに対して損害賠償 を請求するための論拠について,予想される反論も踏まえて論じなさい。 2 Hの損害賠償請求が認められる場合に,Hの身体機能の低下及び疲労の蓄積が損害の 発生又は拡大を招いたことを理由として,賠償額が減額されるべきか,理由を明らかに しつつ結論を示しなさい。 (本試験民法平成23年より) 496956-2301180902
第1 設問1について 1 Aに対する請求 (1)Hは,甲建物の占有者Aに対し,717条1項に基づく損害 賠償請求をすることが考えられる。 (2)(土地の工作物)「土地の工作物」とは,土地に接着した物 をさす。そうすると,甲建物は問題なくこれにあたるものの, エレベーターは甲建物から取り外せるため,「土地の工作物」 とはいえないのではないかが問題となる。 しかし,エレベーターは物理的には取り外せても,建物の改 装等のよほどの事情がなければ通常取り外すことは予定されて おらず,構造的にも機能的にも建物と一体といえる。 したがって,土地に接着しているといえ,土地の工作物にあ たる。 (設置又は保存の瑕疵)本件事故は,エレベーターのボルトが数 本締め忘れられた結果,エレベーターが大きく揺れて生じて いる。これはエレベーターが通常有すべき安全性を欠いてい たといえ,設置の瑕疵にあたる。 (損害)エレベーターの設置の瑕疵により,Hは大きく揺れたエ レベーター内で転倒し,負傷した。 (3)もっとも,占有者Aは,「必要な注意をした」(同条但書) ため,免責されると反論できないか。 AはDにエレベーターの工事を請け負わせており,Dは専門 の業者であることから,AはDを信頼するのが当然と考えられ, 自ら設置の瑕疵に気づくことなど到底できるはずもない。 そこで,Aは必要な注意をしたといえ,Aの反論は認められ ると考える。 (4)以上より,HはAに対して損害賠償を請求できない。 2 Fに対する請求 (1)Hは,甲建物の所有者Fに対し,717条1項但書に基づく 損害賠償をすることが考えられる。 (2)前述のとおり,717条1項各号の要件該当性は認められる。 また,占有者Aが「必要な注意をした」といえる。 (3)以上より,所有者Fは免責されず,損害賠償責任を負う。 3 Dに対する請求 (1)Hは,エレベーターを設置したDに対し,709条に基づく 損害賠償請求をすることが考えられる。 (2)(故意または過失)Dは,エレベーターを設置する専門業者 として,設置するエレベーターのボルトを十分に締め,もって 第三者の身体・生命に危険が及ばないようにするという注意義 務に違反しており,過失が認められる。 (権利侵害・損害の発生・因果関係)上記過失により,Hが重傷 を負っている。 (3)以上より,HはDに対して損害賠償を請求できる。 第2 設問2について 1 身体機能の低下について (1)身体機能の低下は「過失」とはいえない。また,身体機能は 個々人により様々であり,個性として尊重されるべきものであ る。したがって,原則として身体機能の低下を過失相殺(72 2条2項)における過失として斟酌することは許されないとい うべきである。 もっとも,同条の趣旨は損害の公平な分担にある。そこで, 身体的素因が個性の範囲を超え,疾患にあたるような場合に限 り,同条を類推適用し,このような事情も過失相殺の対象とし て斟酌できると考える。 (2)本件では,Hの身体機能の低下は加齢を原因とするものであ り,日常生活を送る上で支障はないと診断されている。また, Hは70歳と比較的高齢であり,この程度の身体機能の低下は 年齢相応のものといえる。そうすると,Hの身体機能の低下は 個性の範囲内といえ,過失相殺において斟酌することは許され ない。 (3)以上より,これを理由として賠償額が減額されるべきではな い。 2 疲労の蓄積について (1)疲労の蓄積については,個人が注意することで損害の発生や 拡大を防ぐことができる性質のものである。 (2)この点,たしかに,Hの疲労の原因は,妻の介護のためであ り,それが高齢のHにとって過酷なものであったことや,介護 はHの責めに帰するものではなく,H自らが疲労を蓄積させな いように休むことも難しい側面がある。 しかし,他方で,かかる事情は加害者側の関与できない事情 である。疲労で足元の覚束ないHがエレベーターで負傷した場 合に,損害の全てを加害者側に転嫁することは公平の観点から 妥当でないといえる。したがって,過失相殺の規定を類推適用 すべきである。 (3)以上より,これを理由として賠償額は減額されるべきである。 以 上 496956-2301180902
問題 Aは,Bに対して,100万円の売買代金債権(以下「甲債権」という。)を有して いる。Bは,Cに対して,自己所有の絵画を80万円で売却する契約を締結した。その 際,Bは,Cに対して,売買代金を甲債権の弁済のためAに支払うよう求め,Cもこれに 同意した。これに基づき,CはAに対して80万円を支払い,Aはこれを受領した。この 事案について,以下の問いに答えよ。なお,各問いは,独立した問いである。 1 甲債権を発生させたAB間の売買契約がBの錯誤によって取り消されたとき,C は,Aに対して80万円の支払を求めることができるか。Bに対してはどうか。 2 甲債権を発生させたAB間の売買契約は有効であったが,BC間の絵画の売買契約 がBの詐欺を理由としてCによって取り消されたとき,Cは,Aに対して80万円の支 払を求めることができるか。Bに対してはどうか。 (旧司法試験民法平成20年第2問改題) 496956-2301180902
第1 設問1について 1 Aに対する請求 (1) Cは,Aに対し,不当利得(703条)に基づき80万円の支 払を求めることが考えられる。 (2) ア AはCから80万円を受領しており,「利得」は認められる。 また,Cは80万円を支払っているから,「損失」も認められる。 さらに,Cの支払いによりAが80万円を得たため,「因果関 係」も認められる。 イ では,「法律上の原因」はあるといえるのか。 たしかに,AB間の売買契約は錯誤により取り消された(95 条1項)であるから,CのAに対する弁済も遡及的に無効(12 1条)となってしまうとも思える。 しかし,本件でCのAに対する弁済は,BC間の絵画の売買契 約において,代金の弁済をAに支払うという合意の下になされた ものである。かかる合意は,BCがAという第三者のためにする 契約(537条)といえる。そして,BC間の売買契約は有効に 締結されたままであるし,第三者のためにする契約は,その利益 を受ける原因となった契約(AB間の売買契約)の有効性とは無 関係である。 した がって,Aの利得には「法律上の原因」がある。 (3) 以上より,CはAに対し,不当利得に基づき80万円の支払い を求めることはできない。 2 Bに対する請求 (1) では,CはBに対し,不当利得に基づき80万円の支払いを求 めることができるか。 (2) ア CがAに弁済したことにより,BはAとの関係で80万円分 の売買代金の支払いを免れることとなる。そこでBには80万 円分の「利得」がある。他方,「損失」「因果関係」について はAに対する場合と同様に認められる。 イ しかし,前述のとおり,BC間の売買契約も,CのAに対する 弁済(第三者のためにする契約)も有効といえる。したがって, Bの利得には「法律上の原因」があるといえる。 (3) 以上より,CはBに対して80万円の支払いを求めることもで きない。 第2 設問2について 1 Aに対する請求 (1) BC間の売買契約が詐欺を 原因として取り消されたことにより (96条1項),BC間の売買契約は遡及的に無効となる(1 21条)。 そうすると,BC間の売買契約に付随してなされた,CがA に代金を支払うという合意(第三者のためにする契約)も遡及 的に無効になる。 (2) ア この場合,無効な行為に基づく債務の履行として給付を受け た者は,原状回復義務を負う(121条の2第1項)。 イ 本件では,CがAに対して給付した80万円を,Cに返還する 義務が生じると考えられる。 (3) 以上より,CはAに対して,同条に基づき80万円の支払を求 めることができる。 かかる結論はAの保護に欠けるようにも見えるが,Aは引き続 きBに対し,売買代金の支払いを求めることができるため問題は ないと考える。 2 Bに対する請求 (1) Bに対しても,121条の2の原状回復義務として,80万円 の支払いを求めることができると考えられる。 (2) このように考えると,CはAに対しても,Bに対しても,原状 回復として80万円の返還請求ができることとなる。これはCを 望外に利するとも思える。 しかし,たとえばCがAから80万円の返還を受けた場合,B はAに対する売買契約に基づく代金債務を履行していないこ とと なり,Aから80万円を請求されることとなる。 他方で,CがBから80万円の返還を受けた場合,既に現状が 回復された以上,Aに対しては返還請求ができない。 したがって,望外にCを利する結論とはいえないと考える。 以 上
問題 被相続人Aは,A名義の財産として,甲土地建物(時価9000万円),乙マンショ ン(時価6000万円)及び銀行預金(3000万円)があり,負債として,Bから借り 受けた3000万円の債務があった。 Aが死亡し,Aの相続人は嫡出子であるC,D及びEだけであった。C,D及びEの間 で遺産分割の協議をした結果,甲土地建物及びBに対する負債全部はCが,乙マンション はDが,銀行預金全部はEが,それぞれ相続するということになり,甲土地建物はC名 義,乙マンションはD名義の各登記がされ,Eが預金全額の払戻しを受け,Bに遺産分割 協議書の写しが郵送された。 ところが,Cは,Bに対する債務のうち1000万円のみを返済し,相続した甲土地建 物をFに売却した。 この事案について,特別受益と寄与分はないものとして,以下の問いに答えよ。なお, 各問いは,独立した問いである。 1 Bに対する債務に関するB,C,D及びE間の法律関係について論ぜよ。 2 乙マンションは,Aが,死亡する前にGに対して売却して代金も受領していたもの の,登記はA名義のままになっていた。この場合,Dは,だれに対し,どのような請求 をすることができるか。 (旧司法試験民法平成21年第2問) 496956-2301180902
第1 設問1について 1 DとEに対する請求 (1)Bは,DとEに対し,それぞれの法定相続分に応じた1000 万円の支払いを求めることができるか。 (2)ア 本件では,CDE間でAの遺産について遺産分割協議が行わ れ,負債全部をCが負うこととなっている。 そこで,DEはかかる遺産分割協議の効果をBに主張し,法定 相続分の支払いを免れられるか。 イ まず,AがBに対して負っていた債務は,相続によりCDEが 負担することになるはずである。 そして、金銭債務のような可分債務(427条)は、遺産分割 協議を経ずに、相続分に応じて当然に各債務者に帰属するのが原 則である。 そうすると、本件でもBに対する債務は、遺産分割協議を経ず にCDEに1000万円ずつ帰属するはずである。そこで、遺産 分割協議内でなされたCDE間の債務に関する合意は、債務の帰 属を変更する合意であり、免責的債務引受としての性質を有する。 しかし、債権者にとっては誰が債務者であるかは重要であるか ら、免責的債務引受には債権者の承諾が必要である。 ウ そうすると,DE遺産分割協議の結果をBに主張することは出 来ず,各々の法定相続分に応じた支払いを免れることはできない というべきである。 エ したがって,Bは,DとEに対し,それぞれ1000万円の支 払いを求めることができると考える。 2 Cに対する請求 (1)Bは,Cに対して,残額2000万円の支払いを求めることが できるか。 (2)前述のとおり,相続人側から,免責的債務引受の効果をBに一 方的に主張することは出来ないと考えられる。 しかし,Bの側から,CDE間の免責的債務引受に承諾を与え, Cに対し3000万円の負債の残額である2000万円の支払い を求めることは可能である。 第2 設問2について 1 Gに対する請求 (1)Dは乙マンションの登記を備えていることから,Gに対して乙 マンションの所有権がD自身に帰属すると主張できるか。 (2)たしかに,本件マンションは,Aを起点としてG及びDに二重 に譲渡されたようにも見える。 そうすると,マンション所有権の帰趨は177条により決すべ きとも思える。 しかし,同条の「第三者」とは,当事者及び包括承継人以外の 者で,登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者をさすところ, DはAの包括承継人であるから,「第三者」にはあたらない。 (3)したがって,Gに対してマンションの所有権の帰属を主張する ことはできない。 2 CとEに対する請求 (1)錯誤取消(95条)の主張 ア 本件では,乙マンションが既にGに譲渡され,Aの物ではなか った。そこでDは,CとEに対し,遺産分割協議の錯誤取消を主 張することができるか。 イ たしかに,乙マンションがGという他人の物であることを当事 者が知っていれば、当事者は意思表示をしなかったとも思えるた め、法律行為の基礎とした事情についての認識が真実に反する錯 誤があるといえそうである。 しかし、遺産分割協議の対象とされた財産の一部が他人物であ ったことは、売買契約において目的物が他人物であった時と同様 の事情といえ,法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして 重要とはいえない。すなわち,後述する担保責任の問題となるに 過ぎないと考える。 ウ よって,Dは遺産分割協議の錯誤取消を主張することはできな い。 (2)債務不履行解除 ア 遺産分割協議は,相続により取得した権利義務につき,共同相 続人相互間で交換するものと考えられる。そこで,DはCEが乙 マンションの所有権をDに移転させる債務が履行不能になったと して,債務不履行解除(542条)をすることができないか。 イ しかし,遺産分割はその性質上協議成立とともに終了し,その 後は相続人間の債権債務関係は残るだけと解するべきである。 このように解さないと,遺産の再分割を余儀なくされ,法的安 定性が著しく害されるからである。 ウ したがって,遺産分割協議そのものにつき債務不履行解除をす ることは出来ないと考える。 (3)担保責任(911条,561条) ア Dは,CとEに対し,911条,561条に基づき担保責任を 追及することができる。 なお,解除については,前述のように遺産分割協議を債務不履 行により解除することはできないのと同様,担保責任に基づく解 除も出来ないと考える。 したがって,Dは,C及びEに対し,相続分に応じて2000 万円ずつの損害賠償を求めることができる。 以 上 496956-2301180902